東京慈恵会医科大学附属病院 脳神経外科Department of Neurosurgery Jikei University School of Medicine

〒105-8471
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FAX:03-3459-6412
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脳腫瘍

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 慈恵医大脳神経外科の脳腫瘍手術では、最新式の多機能搭載手術顕微鏡を駆使した手術を行っています。
術中(ICG)血管造影や、5-ALA(アミノレブリン酸)蛍光腫瘍撮影、3Dmultifusion(重畳画像)などを手術に取り入れています。
 さらには全国に先駆けて導入したハイブリッド手術室によって、術中ナビゲーションシステム、術中CT撮影などを利用した脳腫瘍手術を行う事が
可能となり、リアルタイムに腫瘍摘出程度の把握や正常組織の損傷を回避することができ、安全かつ確実な脳腫瘍手術が可能となっています。
 手術だけではなく、術後の化学療法や放射線治療に関しても各部署と連携し、集学的治療を行っています。さらに、悪性神経膠腫に対しては、
慈恵医大独自に開発した免疫療法というオーダーメイド治療を行っています。また小児脳腫瘍に対しては、
小児科と連携し患者さんに寄り添う診療を行っています。

悪性神経膠腫(グリオーマ)

悪性脳腫瘍の代表は神経膠腫(しんけいこうしゅ)といい、脳内にじわじわと浸潤するため境界が明瞭ではなく、特に悪性度の高い場合は手術のみで治療を完結することは非常に困難です。また、脳腫瘍といっても150種類近く存在し、適切な治療を行うために診断の確定が重要なステップです。そこで、我々は診断から治療まで集学的な治療を行えるように環境を以下の様に整えております。

診断

確定診断には腫瘍組織の病理検査が必要ですが、術前診断は手術適応や手術方針を決定するために必要であり、様々なモダリティーを駆使して診断補助としております。さらに、当院では最新のMRI、CTを利用してMRS・トラクトグラフィーといった特殊撮影を施行しています。また脳血管撮影、提携している他施設でのPET検査などを駆使して診断に役立てています。

治療

治療は外科治療と後療法(外科治療の後に補助療法として行われる治療の事で、化学治療と放射線治療が主体となります)の2本柱で行われます。悪性腫瘍の外科治療は直接脳に切り込む手術となるため、脳の機能を温存しつつ最大限の摘出率を実現することが求められます。そのため当院では、様々な手術支援装置を搭載したハイブリッド手術室で悪性腫瘍の手術を行っています。手術支援として、術中CT撮影、画像でのナビゲーション、術中蛍光腫瘍撮影(5ALA)、各種神経モニタリング(MEP・SEPなど)、術中病理などを利用し、より安全に確実性の高い手術を実現しております。また、2013年4月より保険適応になった化学療法の徐放剤(ギリアデル)の使用や2013年7月より保険適用になったアバスチンの使用に加え当院独自に開発した最新の免疫治療も行い生存期間の延長を目指しています。術後運動性麻痺や言語障害などが残っている場合には、リハビリテーション科と連携した言語・運動・作業のリハビリテーションを含めた他科連携による集学的な治療を展開しております。

カルムスチン徐放剤(ギリアデル)治療

正常組織との境界が不明瞭な神経膠腫において、100%の摘出はほぼ不可能なため、術後の腫瘍再発制御が重要な課題です。全身投与の化学療法に加えて、摘出後に周囲組織に対しての局所療法は様々な形態が開発されて、現在もなお治験されております。その中で、平成25年4月よりカルムスチン徐放剤(ギリアデル)が保険診療の中で使用できるようになりました。抗腫瘍薬剤が含まれている円盤状のポリマーを脳腫瘍摘出腔に敷きつめることで、その後徐々に染み出した薬剤により残存腫瘍を局所的に制御するものです。当院でもいち早く導入し現在使用しております。

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脳腫瘍に対する新規治療法の開発について

脳腫瘍と診断されて「手術が必要です」と言われた場合、「どのような手術を行うか」ばかりでなく「腫瘍の再発を防ぐためにどのような対策を立てるか」ということも非常に大切です。脳腫瘍の再発(特に悪性脳腫瘍の場合)は、生命に危険を及ぼす結果になりかねない深刻な事態を引き起こすからです。腫瘍は極めて多くの腫瘍細胞が集まってできており、その腫瘍細胞が無秩序に細胞分裂を繰り返すために腫瘍は徐々に大きくなっていきます。全ての腫瘍細胞を一つ残らず手術で取り除くことが出来れば腫瘍は再発しませんが、腫瘍細胞は正常細胞の間にも浸み込んでいることが多いため、正常構造を破壊することなく腫瘍細胞のみをすべて取り除くことは出来ません。
一般的な脳腫瘍の治療は、まず正常構造をなるべく破壊せずに取り除ける腫瘍を手術でできるだけ除去します。発生した腫瘍の正確な性質を判定するために手術で摘出した組織を用いた病理診断ということを行います。そこで再発する可能性の低い良性腫瘍と診断された場合、術後はMRIなどの画像診断を定期的に行いながら再発していないかどうかを確認しながら経過観察していけば良いのですが、悪性脳腫瘍と診断された場合は手術以外の別の追加治療が必要になります。そうしなければすぐに再発してしまう可能性が高い上に再発した場合は生命に危険を及ぼすことになるからです。悪性脳腫瘍の場合は追加の治療として、放射線治療や化学療法などを行うことが標準的ですが、腫瘍の種類によってはこれらの治療を行っても再発を防ぐことのできない極めて悪性度の高い腫瘍が存在しています。そのような腫瘍に対して、新たな治療法の開発を目的とした様々な臨床研究が世界中で行われており、以下に挙げる治療は現在当科で行っている臨床研究もしくはごく最近保険治療が認められた新規の悪性脳腫瘍に対する治療です。

免疫療法

悪性神経膠腫に対する腫瘍細胞並びに腫瘍形成細胞と樹状細胞との融合細胞を用いた免疫療法

目標被験者数:初発もしくは再発の悪性神経膠腫 40例
研究実施期間:平成28年9月1日〜平成30年8月31日
研究代表者:赤崎安晴

悪性神経膠腫は、腫瘍細胞が正常脳に浸み込みながらその数を増やし、徐々に脳の正常な機能を奪っていく恐ろしい病気です。腫瘍細胞は、正常な細胞増殖の制御が失われているため、治療しなければ患者さんの生命を奪うまで増え続けます。病気を治すためには、腫瘍細胞を根絶やしにしなくてはならないのですが、たとえ手術で腫瘍が全て取りきれたように見えても、腫瘍細胞は脳内の奥まで紛れ込んでいる可能性が高く、化学療法(抗がん剤治療)や放射線療法など手術以外の治療を追加することが不可欠です。

腫瘍形成細胞というのは更にもっと厄介な敵です。これは、様々な治療への抵抗力を持っている上、次から次へと新しい腫瘍細胞を作り出す能力や驚異的な移動能力などを持っているため、化学療法や放射線治療では退治することができないばかりか、時には元々腫瘍があった場所から離れたところにも新たに腫瘍を作り出してしまいます。がんばって色々な治療を受けた後であっても、その甲斐もなく再発してしまうのは、この腫瘍形成細胞の存在が一因であるとも考えられています。そして残念なことに、現時点ではこの腫瘍形成細胞を標的にした治療法は存在しておらず、結果として悪性神経膠腫は治療困難な病気と言わざるを得ないのです。

このような治療困難な病気に対しては、新たな治療法の開発に期待が集まることは言うまでもありません。そうした期待に応えるべく、臨床試験などの研究が世界中で盛んに行われており、『免疫療法』もその新規治療法の一つと言えます。私たちが研究・開発に取り組んでいる免疫療法は、免疫の力で腫瘍細胞や腫瘍形成細胞を駆除することを目的としています。具体的には、患者さん体内にある樹状細胞という特殊な細胞と、患者さん自身の腫瘍細胞および腫瘍形成細胞を利用して腫瘍ワクチンを作製します。樹状細胞は、抗原提示細胞と呼ばれる免疫担当細胞の一種で、体のいたる所に存在しています。この細胞は、細菌やウイルスなど生体にとっての異物(敵)をいち早く認識し、敵の特徴をリンパ球という他の免疫担当細胞に伝える、いわば免疫機構における司令塔の働きをします。リンパ球は、樹状細胞から敵の情報を受け取ると、体の中を移動しながら敵を見つけ出し、攻撃して殺傷します。すなわち、腫瘍細胞だけが持つ特徴(腫瘍抗原とも呼ばれます)と、その情報を伝える樹状細胞がこの免疫療法の重要な要素です。

 腫瘍細胞や腫瘍形成細胞の持つ腫瘍抗原は極めて多様です。また、『白血球の血液型』とも言われる主要組織適合抗原(ヒト白血球抗原:HLAとも呼ばれます)という因子が異なれば、同じ抗原であっても提示される抗原情報は同じではありません。また、腫瘍抗原が複数存在したり、遺伝子変異のためにその人だけが持つ固有の腫瘍抗原であったりする場合もあります。すなわち、その患者さんにあった腫瘍ワクチンを個別に作製することが、免疫療法をより有効なものにするために重要なのです。そこで私たちは、患者さん自身の腫瘍細胞並びに腫瘍形成細胞と樹状細胞との融合細胞を腫瘍ワクチンとして用いるオーダーメイド免疫療法の臨床研究を開始し、この臨床研究に参加していただける患者さんを募集しております。この治療に用いる融合細胞は、腫瘍細胞や腫瘍形成細胞が持つ腫瘍抗原の全情報をまるごと樹状細胞に取り込ませたものです。これが体内に入ってリンパ球に対して攻撃命令を出せば、指令を受けたリンパ球が腫瘍細胞や腫瘍形成細胞を見つけ出し、殺傷してくれることが期待されます。平成25年3月までに私たちは、樹状細胞と腫瘍細胞との融合細胞を用いた免疫療法とテモダール化学療法との併用療法を、悪性神経膠腫と診断された約50例の患者さんに対して行いました。このうち、初発膠芽腫の患者さん22例に対してこの治療を行ったところ、5年生存率が約40%(標準治療では約10%)、生存期間中央値(治療を受けた患者さんの内、半数の方が亡くなるまでの期間)が30ヶ月(標準治療では約17ヶ月)という結果でした。治療の流れを図に示しながら、解説します。

① 悪性神経膠腫もしくはその疑いのある患者さんに対して、腫瘍摘出手術を行います。(手術後はまず、標準治療の化学療法・放射線療法を実施します。)
② 摘出した腫瘍組織を病院内のGMP細胞生産施設*1に搬送し、特殊な処理を施して腫瘍細胞および腫瘍形成細胞を育てます。
③ 腫瘍細胞・腫瘍形成細胞の培養に成功したら、凍結保存もしくは継代培養し、ワクチン製造に使用可能な状態に調整します。
④ 腫瘍細胞および腫瘍形成細胞が使用可能な状態になったら、遠心型血液成分分離(アフェレーシス)装置*2を用いて患者さんご自身の末梢血造血幹細胞*3を採取します。
⑤ 採取した末梢血造血幹細胞をGMP細胞生産施設に搬送し、特殊な処理を施して成熟樹状細胞を製造し、育てます。
⑥ ③の腫瘍細胞および腫瘍形成細胞と⑤の成熟樹状細胞を混ぜ合わせて、ポリエチレングリコール*4という薬品を使用して、両者の融合細胞を作製します。
⑦ 融合細胞を、患者さんの頚部(のどの脇辺り)に28日毎に3〜10回投与します。
以下のような患者さんが、この臨床研究に参加いただけます。

1. 悪性神経膠腫もしくはその疑いと診断され、それに対して手術が必要な患者さん。(手術で摘出した腫瘍組織に対して特殊な処理を摘出後速やかに行う必要があるため、手術は当院で受けなくてはいけません。)
2. 15歳以上75歳未満の患者さん。
3. この疾患以外のガンもしくは悪性腫瘍への罹患がない患者さん。
4. この疾患を対象とした他の臨床研究へは参加していない患者さん。

用語説明

*1 GMP細胞生産施設
医療に用いることを目的とした細胞を操作・調整・加工するための無菌室で、細胞の汚染を防ぐための様々な工夫を施している施設です。厚生労働省の定める基準を満たす必要があり、当院では平成27年10月9日に認可を受けました(施設番号:FA3150013)。
*2 遠心型血液成分分離(アフェレーシス)装置
必要な血球成分を採取するための装置です。血液を体の外で循環させている間に遠心力により血液を成分ごとに分離し、そこから目的とする血球成分を採取、除去、または交換するために開発された医療機器で、献血の際に血液センターなどでも使用されています。
*3 末梢血造血幹細胞
体を循環している血液中に含まれている細胞の中で、主に血液系細胞になる(分化する)ことが可能な細胞集団です。成熟樹状細胞も、この細胞集団に特殊な処理を加えることによって作り出すことが出来ます。

免疫療法解説図




悪性脳腫瘍に対する光線力学療法(photodynamic therapy: 以下PDT)

PDTという悪性脳腫瘍に対する治療が最近開発され、保険治療でも行えるようになりました。当院では、このPDTを行うための体制を整え、2018年2月に必要機器を導入しました。PDTはまず、腫瘍組織や腫瘍を栄養する血管に集まる特性を持った光感受性物質Talaporfin sodium(商品名レザフィリン®)を手術前日患者さんに投与します。手術ではまず通常通りの手技で腫瘍摘出術を行いますが、摘出を終えた後にこのPDTが活躍します。この治療では、腫瘍を摘出し終えた組織にレーザ光を照射します。このレーザ光は光感受性物質に光化学反応を引き起こし、光感受性物質を取り込んだ腫瘍細胞だけを死に至らしめることができることが証明されています。その殺傷能力は、特定の波長のレーザ光と光感受性物質との光化学反応によって産生される一重項酸素(ROS:reactive oxygen species)の強い酸化作用によるものです。ここで使用するレーザ光は一般的なレーザ治療に用いられる高出力のものではなく、手をかざしてもほとんど熱さを感じない程度の低出力の光で、正常組織を痛めずに腫瘍細胞だけを殺傷することが出来ると考えられています。
他大学で行われた臨床研究の結果ですが、膠芽腫を対象にPDTが施行された12例(初発4例、再発8例)のレーザ照射部位における6ヵ月の抑制率は77.8%(95%信頼区間:50.6%-100.0%)であり、12例中10例でレーザ照射部位には増悪を認めず、良好な成績が得られています。

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下垂体腺腫

下垂体腺腫の治療

下垂体腫瘍に対する手術は、主に経鼻内視鏡手術(内視鏡下経鼻的腫瘍摘出術)が行われております。内視鏡を使用して鼻から腫瘍を摘出する方法です。内視鏡手術のメリットは、従来の顕微鏡手術と比較して見える範囲が広いため、死角が少なく目視下で安全・確実な操作が行えることです。これにより腫瘍の摘出度は向上し、不用意な合併症を回避できます。
下垂体腫瘍の治療には、手術手技の習得はもちろんですが、下垂体・内分泌疾患に関する広い知識と経験を必要とします。

頭蓋底腫瘍の治療

経鼻内視鏡手術の応用編として、脳の深部に発生する頭蓋底腫瘍に対しても経鼻内視鏡手術が行われるようになってきました。拡大経鼻内視鏡手術と呼ばれ、これまで開頭手術を行っていた大型の下垂体腺腫や頭蓋咽頭腫、髄膜腫(鞍結節部、斜台部)、胚細胞性腫瘍、脊索腫などがこの方法で治療が可能です。
この手術のメリットは、体の負担が少ない(低侵襲)ため年齢に関わらず行えること、早期退院が可能であること、また腫瘍の発生部位から処置できるため確実な摘出が可能であることです。デメリットは、深くて狭い部分での操作となること、髄液漏(脳脊髄液の漏れ)の発生率が高いことです。このため豊富な手術経験と高い技術、とくに頭蓋底を確実に閉鎖できる技術が必要となります。また両鼻の粘膜を大きく切開して行う必要があり鼻への負担が大きいので、耳鼻科的な専門知識や治療技術も必要となります。

当院の特色
1)ハイブリッド手術室
手術は最先端の内視鏡(ハイビジョン内視鏡、4K内視鏡)を使用し、ナビゲーションシステム(手術支援装置)やDynaCT(術中画像診断装置)を設置したハイブリッド手術室で行うことで、手術中の位置情報と腫瘍摘出度の把握に加えて、万一の際の血管撮影が可能であり、手術の安全性・確実性を高めております。

2)脳神経外科と耳鼻咽喉科コラボレーション手術
◯ナビゲーション下経鼻内視鏡手術(低侵襲手術)
下垂体・頭蓋底腫瘍に対して、腫瘍の性状や進展から判断し、可能な限り経鼻内視鏡手術にて治療を行います。手術はこの領域の経験豊富な脳神経外科専門医(スタッフ紹介参照)と耳鼻咽喉科専門医による合同手術“Cooperative Surgery”を行っています。鼻の操作は耳鼻咽喉科、頭蓋内は脳神経外科というように、それぞれの専門領域における知識と治療技術を合わせることで、合併症を減らしたより良い手術、専門性の高い治療を行っています。



◯鼻中隔粘膜を用いた鼻内修復
鼻中隔粘膜は血流が豊富であり手術で欠損した粘膜部分を覆うことで完全な鼻内修復が可能です。また、術後の髄液漏予防にも重要な役割を果たします。



◯嗅覚障害の予防
臭いを失うことで生活の質は想像する異常に低下します。
「脳の手術をするのだから臭いぐらいなくなっても仕方ない。」との考えは我々にはありません。
耳鼻咽喉科医師とのコラボレーション手術は極力嗅覚を温存するためでもあるのです。

3)脳神経外科と内分泌内科のコラボレーション治療
下垂体腫瘍の中には手術を必要とせず薬剤での治療が可能な疾患があります。これには、薬剤投与前にホルモン負荷試験をして的確に下垂体の機能を判断する必要があります。
当院では、内分泌内科で負荷試験を行っております。

◯難病指定される疾患です
ホルモンを産生し他の臓器にも異常を及ぼす下垂体腫瘍は難病指定を受けられます。大事なことは、手術の前にホルモン負荷試験を行うことです。当科では、上記の通り内分泌内科で確実で安全な負荷試験を行っております。

4)入院期間の短縮
当科での平均入院日数は、約9日です。手術前日に入院を頂き体調を拝見します。翌日、手術を施行し術後約7日で退院となります。入院期間短縮のためには、耳鼻咽喉科による毎日の鼻内処置が必ず必要です。これがなければこのように短い入院期間を実現することは出来ません。

5)その他の他科との連携
当院では、脳神経外科以外のすべての診療科において高い水準の治療が行われています。下垂体腫瘍の方は、心血管系(不整脈、心筋梗塞、狭心症など)や代謝内分泌系(高血圧、糖尿病、女性ならではの問題など)の病気を合併している方が少なくありません。こうした方々にも安心して治療を受けていただける環境を整えています。



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聴神経腫瘍

聴神経腫瘍は前庭神経から発生する良性腫瘍で、難聴や耳鳴り,ふらつきなどの症状で見つかります(偶然無症状で見つかる場合もあります)。この腫瘍の発生部位の近くには顔面神経(顔面の筋肉と味覚の一部をコントロールしている神経です)と蝸牛神経(聴神経ともいいますが、聴力をコントロールしている神経です)が走行しており、ここが治療の最大のポイントになります。つまり、腫瘍を摘出する際にはこれらの神経を温存する必要があり、そのためには高い技術力と精密なモニタリング機器が欠かせません(神経を切断したり障害すると顔が曲がる、味がわからなくなる、聞こえが悪くなるなど患者さんの生活に直接結びつく障害を及ぼすからです)。

小型〜中等度(腫瘍の大きさが30mm以内もしくは脳幹を圧迫していない)

基本的には経過観察をお勧めしていますが、定期的なフォローで大きくなってきた場合や、患者さんの不安感,希望などによっては外科治療(神経機能温存手術)もお勧めしています(体力的な要素も考えた上で放射線治療も選択肢の一つとして御相談をさせていただきます)。



中等度〜大型(腫瘍の大きさが30mm以上もしくは脳幹を圧迫している)

放射線治療が効きにくいため、原則的に外科治療(神経機能温存手術)をお勧めしています(術後に腫瘍が残存、再発ある場合には追加治療として放射線治療の御相談をさせていただきます)。



聴神経腫瘍は内耳道内に限局した小さなものから脳幹を圧迫して生命の危険に及ぶような大型の腫瘍まで様々ある中で、その手術の目的は腫瘍を最大限摘出し、神経機能障害を最小限に留める事がポイントとなります。そのため、当施設における基本的な手術適応は上記の通りですが、患者さん個々の家族背景や病気に対する不安感は様々なため、全ての患者さんにこの基準が当てはまる訳ではありません。患者さんが何を聞きたくて、どういった治療を望むのかを話し合いながら、各々の患者さんに合った“オーダーメイド治療”を行っていきます。

手術成績

肉眼的全摘出・亜全摘出率(90%以上の摘出率):96.6%
部分摘出率(90%以下の摘出率):3.4%
顔面神経温存率:93.4% 
*万が一顔面神経が切断された場合には、可及的速やかに形成外科に神経再生のための神経移植手術をお願いしています。
聴力温存率:55.1%
*郭ら(横浜医療センター;藤津和彦医師、厚木市立病院;石井卓也医師)の共同開発による特殊手術支援機器(蝸牛神経追跡モニター:詳細は後述の手術支援機器を御参照ください)により聴力温存率が飛躍的に向上しました。

顔面神経刺激装置(NIM3.0)

顔面神経に直接微弱な電流を流す事により、顔面表情筋の収縮反応を音に変換する機器で、簡便に顔面神経の走行と機能を判定でき、顔面神経温存の手術には欠かせません。



蝸牛神経追跡モニター(Cochlear Nerve Tracer:CNT)

当たり前の事ですが、蝸牛神経(聴神経)がどこを走行しているのかをいち早く見つけられなければ聴力温存手術は不可能です。そこで、われわれは術者の“勘”だけに頼らず、正確に蝸牛神経を見つけるべく、独自に蝸牛神経追跡モニターを開発することに成功しました。この機器は、音刺激を受信したり、逆に刺激を出す事によって内耳から脳幹までの蝸牛神経の全走行における機能を測定できます。また、測定時間がわずか数秒なので手術操作を邪魔することなく簡単に行う事ができるため術中に蝸牛神経を見失う事がありません。さらには測定回数に制限は無く、体に無害なので安心して使えます。この機器を使ってから、聴力温存率 が飛躍的に向上しました(聴力温存率:55.1%)。また後述の聴性脳幹反応モニターを併用する事により、更なる精密な蝸牛神経の機能測定を可能としています。(術前より聴力が無い、もしくは極度に低下している患者さんには使えません。)

聴性脳幹反応モニター(ABR)

聴覚伝導路を頭皮上で脳波として導出する簡便かつ一般的な聴神経の機能を測定するモニタリングですが、その測定に数十秒かかるため、オンタイムの情報が得られないことが欠点です。(*その欠点を補うべく、われわれはCNTを併用しています)

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小児脳腫瘍

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小児がん治療は20世紀最大のサクセス・ストーリーといわれますが、今日もなお小児がんは、小児の疾病による死因を占めています。小児脳腫瘍は小児がんで最も多い固形腫瘍ですが、小児がんによる死因と合併症・後遺症の最大の要因となっており、子どもたちの救命とQuality of Life(QOL)の向上は小児がん治療における最大の課題です。目標達成を妨げる大きな要因として、小児脳腫瘍が100種類の稀少がんから構成されること、神経系の発達期にあり、治療による障害が大きくなりやすいことがあげられます。これらの障壁を乗り越えふたつの目標を達成するためには、診療のセンター化が必要で、集学的治療と多職種診療チームによる支援が必要です。私達は、我が国の小児脳腫瘍診療のセンターとなることを志し、世界水準を満たした診療と支援を展開し、皆様に貢献していきたいと願います。

小児脳腫瘍について


はじめに

小児脳腫瘍は,小児がんの中では、白血病につぐ小児期最多の固形腫瘍です(図1-A)。小児がん治療は、20世紀の医学の代表的なサクセス・ストーリーと言われ、治療の進歩によって小児がんによる死亡率は最近20年でも年々下がっています。しかし、今日もなお我が国の小児の疾病による死因の首位は小児がんであり、その克服は大きな課題です。そのような小児がん治療の中で、残された最大の課題とされるのが小児脳腫瘍です。
治療の進歩に関わらず、小児脳腫瘍は小児がんによる死亡の主因となっています(図1−B)。一方小児脳腫瘍では発症時から麻痺,失調,感覚障害などの神経症状のほかに,内分泌障害,高次脳機能障害などのさまざまな症状が見られ(表1),小児がんによる合併症と後遺症の最大の原因となっています。脳腫瘍の子どもたちの生存率とQuality of Life(QOL,生活の質)の向上は世界の小児がんの残された最大の課題とされます。
こうした目標を達成する妨げとなっている小児脳腫瘍の特徴と問題点について延べ、問題を克服しながらふたつの目標を達成するためにどのように集学的治療が行われているのかをお示しいたします。私たちは、このような目標の達成のために、世界の水準をみたした治療をすすめてまいります。
白血病に比べ進歩はゆっくりでも,今日では多くの脳腫瘍の子どもたちが治癒するようになりました。治癒した後には,子どもたちには長い人生があります。合併症や後遺症の有無にかかわらず,診断時から治癒後まで,子どもたちと家族のあらゆる身体的問題、心理社会学的問題に対応し、子どもたちやご家族を支える長期的な診療(包括的診療)が,小児脳腫瘍ではとりわけ重要です。 このような観点から私たちは、様々な専門家からなる多職種チームによる支援を続けてまいります。

I.小児脳脊髄腫瘍の特徴

1.たくさん種類があること(多様性)
日本で見られるおもな小児脳腫瘍には,脳腫瘍全国統計によれば星細胞腫(19%),髄芽腫(12%),胚細胞腫瘍(10%),頭蓋咽頭腫(9%),退形成性星細胞腫(6%),上衣腫(5%)の順になります。小児脳腫瘍は,これらの腫瘍を含め全部で100 種類以上の腫瘍があります。診断と治療の方法は,腫瘍の種類によってそれぞれ大きく異なります。

2.稀少性-頻度
小児脳腫瘍は、小児がんの中ではもっとも多い固形腫瘍ですが、その頻度は、乳がんの100分の1、成人脳腫瘍の10分の1の頻度です。これらがさらに100種類以上の腫瘍から構成されますから、個々の腫瘍は多くが稀少がんということになります。

3.発症する部位
小児脳腫瘍は,成人脳腫瘍と異なりテント下(小脳テントから下)に発症するものが多いのが特徴で、約6 割を占めます。残り4 割がテント上に発症し,まれに脊髄にも発症します。発症部位とよく見られる腫瘍を表2 に示します。同じ種類の腫瘍でも発症部位によって症状は異なりますし,治療方法も異なります。手術の難易度も腫瘍の発症部位に大きく左右されます。

4.発症の仕方と早期診断の可能性
小児脳腫瘍の発症の仕方(はじめて症状がでてくるときの様子)は,発症部位と腫瘍が増殖する速さにより決まります。悪性度の高いものの方が、急激に症状が進むのが特徴で、発症から診断までの時間が短い傾向があります。最も多い症状は,腫瘍によって髄液の流れが遮られ(水頭症)頭蓋内の圧が上がっておきる症状(頭蓋内圧亢進症状)と腫瘍のある部位の神経の働きが抑えられてでてくる症状〔局所神経症状〕です。発症部位別に見た症状とその頻度を表2に挙げます。
症状が出始めるころは,風邪や胃腸炎などの一般的な小児疾患の症状と区別をつけにくいことが多いので注意が必要です。このため,脳腫瘍を疑うまで時間がかかり早期診断は非常に困難なことが多いのです。CTやMRI、さらには最近のPETなど画像診断技術が発達した今日でも,診断までの時間は画像診断技術がなかった時代と比較して短縮されていないことが示されています。診断のためには,まれでも脳腫瘍の可能性があることを頭に入れて疑い,可能性が否定されるまでは注意深く経過を追うことが重要です。
脳腫瘍の診断がつくと,ご両親はもっと早く診断できなかったのかと自分たちを責めたり、最初に診断できなかった医療者を責めたりして,悩むことがしばしばあります。しかし実際には,小児脳腫瘍では、早期診断が予後の改善に結びつくことは期待できないと示されています。症状が出てから診断までの時間が短く,早期診断されるものほど悪性で腫瘍増大の速いものが多く,予後が悪いことが多いのです。
ご両親は、さらに発症の原因を求めて悩まれることがあります。成人の腫瘍とは異なり、出生前も含めて、何かが悪かったから発症する、というような腫瘍はほとんどありません。従って原因を捜しても答えが得られることはありません。
ご家族の皆様には、このような事情をよくご理解いただき、理不尽にご自身を責められたりすることなく、治療に向かっていただきたいと願います。

5.診断方法とその問題点
症状から脳腫瘍が疑われ,スクリーニングとしてCT 検査が行われ,さらにMRI 検査が行われて診断に至る場合がほとんどです。CT 検査は,短時間でできるため低年齢の子どもでも検査できますが,腫瘍の存在の確定が困難な場合もあり注意が必要です。MRI検査は,原則として造影剤を用いた検査が必要です。検査時間が長く,低年齢の子どもでは安静を保つために鎮静薬を用いる必要があります。頭蓋内圧亢進などにより全身状態が悪い場合には,鎮静薬を用いると、状態が急激に悪化する場合があり、十分な注意が必要です。
MRI 検査により腫瘍の位置,各画像における腫瘍の様子,周囲組織への腫瘍の広がりとその程度,造影剤による造影効果,播種(転移)の有無などが明らかになり,症状・経過,年齢などを合わせて臨床的な診断が可能になります。しかし,臨床診断のみで診断を確定するのは困難なことも多く,症状を改善する目的からも、手術によって腫瘍を切除し,これを病理組織学的に検査することによって確定診断が可能となります。ただし,一部の腫瘍は臨床診断のみで病理組織検査は不要だとされます。

6.治療方法とその問題点
治療は腫瘍の摘出が基本ですが,腫瘍の広がり方によっては、摘出は困難な場合があります。一方腫瘍の広がりかたや転移の可能性から、一部の良性の腫瘍を除いては,腫瘍が全摘出された場合も術後の治療が必要です。外科的治療,放射線療法,化学療法を組み合わせた治療(集学的治療)が行われます。
小児脳腫瘍には100もの種類があり,同じ種類の腫瘍でも発症部位,年齢によって治療の目標と方法は大きく異なります。たとえば良性腫瘍であっても部位によっては障害を起こさずに腫瘍を摘出することはできず,他の治療が必要になります。
放射線療法は,低年齢であればあるほど高次脳機能障害などの障害が大きくなります。本来放射線療法は有効な治療ですが,3 歳未満の腫瘍ではなるべく用いずに化学療法で治そうとする試みが行われます。手術も、小脳の腫瘍の摘出などは、乳幼児では成人にはみられないような高次脳機能障害を来すことがあります。このように治療によって大きな障害を起こす可能性が高いことから、治療法の選択に制限があります。 このように腫瘍の種類,年齢,発症部位、さらには治療による合併症の可能性も考えながら、最適な診断と治療の方法を選択することが、非常に複雑で困難になります。適格な判断をするためには、小児脳腫瘍診療の拠点化が必要であり、その中で集学的治療と包括的診療をリードしていく専門家が必要です。私達は、そのような診療拠点となることを志し、専門家となることを志しながら、診療を展開してまいります。

7.長期フォローアップの重要性
小児脳腫瘍の子どもたちは,治療後も表1に挙げるさまざまな問題に直面することがあります。これらの多様な問題の対応には多職種のスタッフから成るチーム診療(multidisciplinary team approach)が必要であり有効です。QOL の向上は小児脳腫瘍の治療における大きな目標のひとつであり,長期にわたり子どもたちとご家族のQOL を客観的に評価し,これを未来の治療方法に反映していく必要があります。

8.緩和医療
小児脳腫瘍では,脳幹部腫瘍や乳幼児脳腫瘍など,現在も救命が非常に困難なものがあり,他の腫瘍も再発時には救命困難なことがあります。治療が難しく腫瘍が進行する場合,初発時と同様にさまざまな身体症状・精神症状が現れます。適切な対応によって症状の制御や緩和が可能な場合もあり,緩和医療的化学療法が効果を発揮することもあります。
症状をコントロールできれば,地域医療機関との連携によりご自宅での療養が可能になることもあります。症状,諸問題へのより適格な対応,在宅緩和医療システムの確立のためにも,治療のセンター化が望ましいと考えられます。

II.私たちの目標 -小児脳腫瘍治療のセンターを志して

1)小児脳腫瘍の専門施設として診断直後より小児科・脳神経外科・放射線科・病院病理部・リハビリテーション科・緩和ケア室など各科スタッフが共同し、速やかに診断・治療を進め、最新の最適な集学的治療を提供いたします。
2)受診後から治療後まで、さらには成人期まで生涯にわたるあらゆる身体的・心理的・社会的問題に対応できるよう、医師・看護師・医療ソーシャルワーカー・臨床心理士など多職種チーム診療体制をとり、長期フォローアップ外来において支援を続けてまいります。
3)次の世代の新たな治療を切り拓く臨床試験に参加し、推進してまいります。

参考文献
1) 国立がん研究センターがん対策情報センターがん統計研究部 院内がん登録室:がん診療連携拠点病院院内がん登録 2011年全国集計 報告書、2013;54-56.(国立がん研究センター ホームページで下記のアドレスで公開http://ganjoho.jp/data/professional/statistics/hosp_c_registry/2011_report.pdf)
2) Smith MA, Altekruse SF, Adamson PC, Reaman GH, and Seibel NL. Declining childhood and adolescent cancer mortality. Cancer. 2014,120(16):2497-506
3) Wilne S, , Collier J, Kennedy C, Koller K, Grundy R, and Walker D.Presentation of childhood CNS tumours: a systematic review and meta-analysis. Lancet Oncol 2007;8:685-95.

以下には、主な小児脳・脊髄腫瘍である、低悪性度神経膠腫、高悪性度神経膠腫、脳幹部腫瘍、髄芽腫、上衣腫、胚細胞腫瘍、頭蓋咽頭腫、非定型ラブドイド奇形腫様様腫瘍(AT/RT), 脈絡叢腫瘍ついての解説があります。

低悪性度神経膠腫 Low grade glioma(LGG)



1.定義・概念・病因・病態・疫学

1)低悪性度神経膠腫(low grade glioma, LGG)はWHO 悪性度分類grade I,IIの神経膠腫であり、病理組織学的には悪性度が低いとされますが、重い合併症を起こして、死亡することもあり、良性の腫瘍とはいえません。脳・脊髄のどこにでも発症します。
2) 小児脳腫瘍の30-40%を占め、最も多い腫瘍です。どの年齢にも発症しますが、発症時の平均年齢は6〜11歳です。視神経や視交叉といった視路(眼からはいった情報が伝わる経路)に発症する視神経膠腫瘍は乳幼児期に多い腫瘍です。
3)神経線維腫症I型(neurofibromatosis I, NF1)では、視神経膠腫の発症が多くNF1患者の5-15%に発症します。視神経膠腫の50%がNF1の患者さんです。
結節性硬化症(tuberous sclerosis)では上衣下巨細胞星細胞腫(subependymal giant cell astrocytoma, SEGA)を合併することが知られており、診断基準のひとつにもなっています。全患者の15%でSEGAを認めます。

2.症状

症状は、発症部位によって大きく異なります。ゆっくりと症状が進行することが多いために、発症から診断まで時間がかかることが多いです。
1)眼科学的症状:視神経膠腫では、眼振(眼がゆれる)、斜視、視力の低下を初発症状として発症することが多いです。
2)内分泌学的症状:視神経膠腫瘍では、思春期早発、思春期遅発、間脳症候群(成長の障害と極端なやせ)、下垂体機能低下、成長障害などの症状で発症することがあります。
3)頭蓋内圧亢進:小脳星細胞腫では、脳脊髄液の通路を塞いで水頭症をおこす場合、あるいは腫瘍そのものが広がりによって、頭蓋内圧亢進症状を呈して発症する場合があります。症状によっては緊急の対処を必要とすることがあります。
4)痙攣:焦点の種類によっては、原因としてテント上腫瘍の可能性があるため、CT, MRIによる精査が必要です。
5)脳神経障害:脳幹部の腫瘍では脳神経が障害されて症状を認めることがあります。
6)失調:小脳腫瘍、脳幹部腫瘍では失調(ふらつき)を認めることがあります。
7)脊髄圧迫:脊髄腫瘍では感覚の異常,膀胱直腸障害(排便、排尿が困難)、筋力の低下など脊髄圧迫の症状を示します。
8)病理学的には低悪性度の腫瘍でありながら、診断時や再発時に播種(転移)を認め、その症状を認めることがあります。

3.診断

1)症状から腫瘍の存在を疑って、CT、 MRI検査で腫瘍が認められ、診断に至ります。
2)診断方法については国際的なコンセンサスが発表されています。NF1の患者さんで、画像検査で視神経膠腫瘍に典型的な所見がある場合は、手術をして腫瘍を検査すること(生検)は必要ないとされます。NF1患者さんでない場合にも、視神経膠腫や被蓋腫瘍など臨床経過と画像所見が典型的な場合には、生検は不要であるとされています。鞍上部腫瘍や脳幹部腫瘍で、他の病気との区別が困難な場合には診断のための手術(生検術)が行われます。
3)病理組織学的学的には、最も頻度の多い毛様性星細胞腫(pilocytic astrocytoma, grade I)の他、近年独立疾患とされた毛様粘液性星細胞腫(pilomyxoid astrocytoma, gradeII)、線維性星細胞腫(fibrillary astrocytoma, grade II)や混合性腫瘍など様々な腫瘍があります。最近の報告では、病理学的診断、病理学的悪性度が予後に与える影響が少ないことが明らかにされています。

4.治療

1)治療の適応(治療を始めるかどうかの判断):無症状で、偶然に発見された場合には、症状の出現や進行を認めない場合には、治療をせずに経過観察します。特に無症状のNF-1患者さんの視神経膠腫や、被蓋の腫瘍は、そのまま進行がないか、退縮する(自然に小さくなっていく)ことがあります。反対に既に症状を発症し、進行性していく場合は、早期に治療を開始することを検討します。
2)外科的治療:小脳星細胞腫の様に、重大な障害をもたらすことなく腫瘍の摘出が可能な場合には、腫瘍摘出が治療の第1選択になります。腫瘍が全摘された場合には、後に何も治療を加えなくてもそれだけで救命が可能です。最近の小脳星細胞腫の患者さんの追跡調査研究では、外科的治療のみでも、高次脳機能障害が認められることがあることが明らかになっており、手術方法に関して議論があります。時には障害の可能性を考慮して、部分摘出にとどめるべきであると考えられるようになっています。
3)放射線治療:放射線治療は、かつては、切除困難な腫瘍の標準的な初期治療でした。しかし、放射線治療後の患者の長期追跡研究から、もやもや病などの脳血管障害、認知機能障害、内分泌機能障害、悪性転化、二次がんなどの容認しがたい数多くの合併症が起きることが明らかになりました。最近の成人期以降までの長期追跡調査では、放射線治療を受けたことが、長期の生命予後を左右することが明らかにされました。陽子線治療をはじめ、周囲正常組織への影響を軽減した最新の放射線治療でも、これらの合併症をどこまで軽減できるかは明らかでないため、他の治療による治療が困難な場合に限って放射線治療を採用するべきだと考えられています。
4)化学療法:放射線治療による合併症を軽減するあるいは避けるために、化学療法は初期治療として導入されるようになりました。乳幼児で放射線治療を延期する目的で導入され、その効果が示されるようになり、しだいに適応年齢は年長児、思春期患者まで広がっています。カルボプラチン・ビンクリスチン併用、TPCV療法(チオグアニン、プロカルバジン、ロムスチン(CCNU), ビンクリスチン)、ビンブラスチン単剤治療など様々な方法がありますが、メトロノミック化学療法と呼ばれる長期的にわたる定期的な化学療法が有用であると考えられていいます。化学療法においても、QOLを考慮して、晩期合併症の可能性のある薬剤は極力用いないようにするするべきであると考えられ、TPCV、シスプラチン、エトポシド、テモゾロミドはその効果が他に優っていても、実地臨床では用いられない傾向にあります。特にNF1の患者さんでは二次がん誘発の可能性に注意が必要です。化学療法では、多くの場合に、腫瘍の進行阻止が可能ですが、腫瘍が消えることはほとんどありません。いずれの化学療法でも、治療後には50%近くで腫瘍が再燃し、治療が必要となります。この場合、もう一度化学療法を行うことが多くなっています。
5)分子標的治療:最近の分子生物学的解析により、腫瘍に特徴的なB-RAF遺伝子の異常などが明らかにされ、これを標的とした治療の可能性がでてきました。結節性硬化症に合併するSEGAでは、mTOR阻害剤の有用性が示され、切除困難な場合には用いられるようになっています。

5.予後

アメリカの最新の成人期に移行した患者さんの追跡報告では、20年全生存率は87%と高く、単変量解析では、診断時年齢、発症部位、悪性度、腫瘍の切除度は予後を左右する因子となっておらず、多変量解析では放射線治療歴のあることのみが死亡のリスク因子となっていることが明らかにされました。治療による障害の有無が、QOLのみならず生命予後も左右する可能性があり、十分な配慮が必要です。腫瘍は、思春期から成人期までに活動性を失うことが多く、それまでにどのように、合併症の少ない治療で腫瘍を制御するかが重要です。治療にも関わらず、視機能障害、内分泌機能障害、運動障害が後遺症となることも多く、治療中から治療後まで、眼科医や内分泌専門医など多職種チーム医療が必要です。

高悪性度神経膠腫 High grade glioma(HGG)

1.定義・概念・病因・病態・疫学

1)WHO 悪性度分類グレード III,IVの神経膠腫で,脳・脊髄のどこからでも発症します。小児脳脊髄腫瘍の15%をしめ、どの年齢にも発症しますが10台の発症が多いです。半数は大脳皮質に発症し、残り半数は視床、視床下部、第三脳室、基底核に発症します。
2)神経線維腫症1型(NF1)、神経線維腫症2型(NF2)で発症が多いことが知られています。

2.症状

1)症状は発症部位によって決まります。発症から診断までの急速に症状が進行するものもある一方、長期にわたって症状が続いてから診断にいたるものもあります。
2)テント上腫瘍では、頭痛、痙攣、運動の障害が多く見られます。
3)基底核腫瘍では、舞踏病様運動といわれる異常な運動が認められます。

3.診断

1)他の腫瘍と同様、症状から腫瘍の存在が疑われて、CTやMRIなど画像診断により腫瘍が認められ診断に至ります。MRIでは、まわりの組織への浸潤性(しみこみ方)の強い病変として描き出され、周囲の浮腫(むくみ)を伴う場合が多いのが特徴です。
2)頻度は多くはありませんが、髄膜播種(転移)を起こす場合があるので、診断時から脊髄MRIで確認することが必要です。

4.治療

1)外科的治療:診断の確定のためにも外科的治療(手術)が最初の治療となりますが、腫瘍の摘出の程度は発症する部位に左右され、生検にとどまることがあります。90%以上の腫瘍切除が生命予後を左右することが報告されていますが、視床や視床下部、脳幹部などでは非常に困難です。
2)放射線治療:術後放射線治療を行います。54グレイの局所照射が標準的です。
3)化学療法:化学療法の併用は、北米でのランダム化臨床試験CCG-943で、放射線単独治療群に比較して化学療法併用群の生存率が上まわったことから、以後併用治療の臨床試験が続けられてきました。しかし、最近のテモゾロミドも、成人の様な明白な併用効果を示すことはできず、いずれもCCG-943 を上回る効果を示したものがありません。治療中のQOLを考慮してテモゾロミドを併用する場合が多くなっています。
乳幼児期発症の腫瘍ででは、化学療法に対する反応が年長児とは異なり、手術、化学療法のみで救命可能な場合があり、手術後は化学療法を始めます。

5.予後

1)5年生存率は20%以下とまだ厳しい状況にあります。Grade IVの腫瘍は、Grade IIIの腫瘍に比較し、予後が良いことが明らかになっています。このほかMGMTのメチル化など分子生物学的予後因子が明らかにされています。
2)腫瘍の切除程度が予後に反映しますが、多くの腫瘍では全摘出が困難です。

脳幹部腫瘍Brainstem tumors

1.定義・概念・病因・病態・疫学

脳幹部腫瘍は、小児中枢神経系腫瘍の15-20%を占める腫瘍です。発症時年齢の中間値は6-7歳で、まれに乳児期、成人期にも発症します。発症に性差はみられません。腫瘍は視蓋から中脳、橋、延髄、頚髄延髄移行部まで、脳幹部のあらゆる部位に発症します。このうち75%は、橋を中心にびまん性(しみこむように広く)に浸潤するびまん性内在性橋膠腫(diffuse intrinsic pontine glioma, DIPG)です。この他に脳幹部には視蓋、中脳、延髄・頚髄延髄移行部に局在性(focal)あるいは外方に増殖していくような(exophytic)腫瘍が発症します。 DIPGがWHO grade II〜IVの神経膠腫で、病理組織診断にかかわらず予後不良(治癒困難)であるのに対し、局在性あるいは外方増殖型の腫瘍はGrade I、IIの低悪性度神経膠腫で、予後が良好なものが多いです。他には、以前にはPNETと呼ばれていた胎児性腫瘍やAT/RTが脳幹部に発症することがあります。

2.症状

1)びまん性内在性橋膠腫(DIPG)は、失調(ふらつき)や脳神経の症状(顔面神経麻痺=泣いたり笑ったりしたときに左右差がでる、動眼神経麻痺=眼の動きがおかしい、眼の位置がおかしい、嚥下障害=食事や水分をのみこむことができない、構音障害=声を出すことができない)、手や足の筋力低下などで発症し、急速に症状がすすんで診断にいたるのが特徴です。
2)それ以外の腫瘍は、腫瘍のある部位によって症状が異なります。被蓋・中脳腫瘍は眼の動きの異常で気付かれることが多いです。そのほかDIPGと同様に脳神経の症状や、ふらつき、手や足の筋力低下で気付かれることもあります。DIPGと比較して症状の進行がゆっくりなことが多く、年単位でようやく診断にいたることもあります。

3.診断

1)症状から、腫瘍の存在が疑われ、CTおよびMRI検査によって脳幹部に腫瘍を認めて診断にいたります。DIPGと他の脳幹部腫瘍は、治療も予後も大きく異なるために、診断時にはっきりと区別することが重要です。。
2)DIPGでは、臨床経過と画像所見が典型的であれば、病理組織所見に関わらず経過は一様であるため、手術をして腫瘍を調べる(生検)必要はないとされます。
3)DIPG以外の脳幹部腫瘍は、多くが悪性度の低い神経膠腫ですが、症状や経過と画像かではDIPGとの区別、 悪性度の判断が困難な場合があり、手術(定位生検)を行い、組織診断によって治療方針を決めることが奨められます。

4.治療

1)外科的治療(DIPG):臨床的に典型的なDIPGと診断された場合には、生検を行わずに臨床的診断に基づいて治療を開始することが原則です。腫瘍の切除は困難あるいは不可能であり、部分的な切除もその後の経過を左右しないため、外科的治療の対象となることはありません。まれに診断時から、第四脳室を圧迫し、水頭症を併発する場合があり、その場合にはVP-シャント術(髄液の逃げ道をつくる手術)などにより改善を図ります。
2)外科的治療(DIPG以外の腫瘍):DIPG以外の脳幹部腫瘍は、多くが悪性度の低い神経膠腫ですが、一部悪性度の高い神経膠腫や他の腫瘍、あるいは腫瘍以外の病気が含まれるため、定位生検など手術によって病理組織診断を行うことが推奨されています。局在性腫瘍では、頚髄延髄移行部腫瘍は、画像診断と手術手技の技術の向上により腫瘍の全摘率は上昇しており、全摘出によって救命することが可能です。しかし合併症の可能性をよく検討しながら摘出を計画する必要がありあす。被蓋腫瘍(tectal glioma)は、多くは予後良好な腫瘍であり、脳脊髄液の通路を塞いで水頭症をおこした場合にのみ、第3脳室底開窓術やV-Pシャント術(いずれも脳脊髄液の逃げ道をつくる手術)によって髄液の流れを確保すれば、多くの場合それ以上に腫瘍を切除する必要はないことがわかっています。
3)放射線治療(DIPG): DIPGでは、診断後早期に、腫瘍に対し局所照射を行います。通常の分割照射による総線量54-60グレイの局所照射が標準的です。多分割照射法により60グレイを越える高い線量を照射する臨床試験が行われましたが、放射線壊死の頻度が増加したのみで生存期間の延長を認めませんでした。最近は低分割照射の臨床試験が行われていますが、生存期間の延長を認めず、むしろ短くなる結果がでたものもあり、治療期間の短縮以外の利点は示されていません。
4)放射線治療(DIPG以外の腫瘍):局在性腫瘍の場合にも、放射線治療は効果的な治療ですが、低悪性度神経膠腫の項目でも書きましたように、放射線治療による晩期合併症がQOLのみならず生命予後(最終的になおるかどうか)を左右する可能性が最近になって示されるようになりました。このため、化学療法や手術など、他の治療方法では治療できない場合に限って用いられる傾向にあります。
5)化学療法(DIPG):DIPGに対しては放射線治療に、化学療法を併用する臨床試験が世界で数多く行われてきましたが、有用性が示されたものがまったくありません。このため、最初に化学療法を受けることはすすめられません。最近は、数多くの分子標的薬も本疾患を対象に臨床試験が行われていますが、有効性が示されたものがありません。化学療法は緩和医療で経口抗がん剤が用いられるにとどまっています。
6)化学療法(DIPG以外):他の低悪性度神経膠腫と同様に、腫瘍の切除が困難で、症状がある場合には、化学療法が用いられるようになっています。

5.予後

DIPGの2年全生存率で5-20%で、生存率の向上が近年も認められません。予後の改善のためには、腫瘍そのものから腫瘍特異的な遺伝子異常あるいはエピジェネティックな異常を見つけ出し、治療標的を見つけ、薬剤を開発する必要性があるとして、診断後腫瘍生検を行い、遺伝子異常検索、薬剤スクリーニングを行う臨床試験が欧米で開始されています。
局在性腫瘍は、被蓋中脳腫瘍の90-100%をはじめ、予後良好なものが多く、治療合併症が生命予後を左右する可能性も高く、QOLも考慮して、合併症を少なくする治療方針の採用がすすめられます。

髄芽腫 Medulloblastomaおよび未分化神経外胚葉性腫瘍Primitivie neuroectodermal tumour(PNET)



1. 定義・概念・病因・病態・疫学

1) 胎児性腫瘍といわれる悪性腫瘍で、小児脳腫瘍の約25%をしめます。悪性度が高く、診断時から4割近くで、頭蓋内や脊髄に播種(転移)を認めます。
2) 髄芽腫は、小脳テント下の後頭蓋窩に発症するのに対し、PNETは、それ以外のテント上の大脳や脳幹部に発症します。顕微鏡で検査した場合には、髄芽腫はPNETと非常に似ているために、同じ疾患として治療されてきましたが、同じ治療を受けてもなおり方が大きく異なり、また最近の分子生物学的研究から、ふ異なった病気であることが明らかにされてきました。(*2017年のWHO病理分類ではPNETという名称はなくなりましたが、ここではそのまま用います。)
3) 乳幼児期から成人期まで発症しますが、5-7歳にもっとも多く認めます。

2.症状

1)髄芽腫では、腫瘍により第四脳室が塞がれて水頭症を起こして頭蓋内圧亢進症状で発症することが多いです。起床後の頭痛、嘔気・嘔吐が典型的な症状です。最初のうちは、休んでいると症状が改善してしまうため、腫瘍を疑うのが難しいことが多いです。眼科医の診察をうけると、このような場合に、視神経乳頭に特徴的な変化(うっ血乳頭)を認め、頭蓋内圧が上がっていることが診断できる場合があります。その他の症状として、失調(ふらつき)、脳神経の障害の症状などがあります。
2)テント上PNETでは、けいれん、頭痛、運動の障害などで発症します。発症部位により症状が決まってきます。

3.診断

1)他の腫瘍と同様に、症状から腫瘍の存在が疑われ、CTやMRIの画像検査によって腫瘍が認められ診断に至ります。
2)播種(転移)をしやすいので、手術前に脊髄MRIによって、転移の有無を調べることが必要です。
3)画像検査だけでは、上衣腫など他の腫瘍と区別がつけられない場合もあり、手術により摘出された腫瘍の病理学的検査によって最終的な診断がつけられます。

4.治療

①放射線治療の導入:髄芽腫の治療は、集学的治療の成功の歴史であると言われます。診断時約40%に播種を認め、1919年Cushingが、その制御のため術後放射線治療を提案したのが進歩の起源とされます。1948年、Pattersonらが、今日の全脳脊髄照射(craniospinal irradiation, CSI)に相当する全中枢神経系への術後照射を提唱し、長期生存が認められるようになりました。今日も成人髄芽腫では、腫瘍摘出後に放射線治療単独で治療される場合があります。この場合には、5年生存率は50 %前後ですが、5年以降の晩期再発が続くこと、中枢神経外転移を認めることが問題とされ、成人でも化学療法を併用する臨床試験が行われています。
②化学療法の導入:1970年代までには、単剤あるいは多剤併用化学療法の臨床第2相試験(腫瘍の縮小効果の有無を調べる試験)が行われ、抗腫瘍効果をもつ薬剤が見いだされました。化学療法の本格的な導入は、1975年の北米Children’s Cancer Group(CCG)と欧州のInternational Society of Paediatric Oncology(SIOP)により同時に行われた二つのランダム化試験です。術後療法として放射線治療単独をコントロール群、化学療法(SIOP:カルマスチン・ビンクリスチン、CCG:これにプレドニゾロンを加えたもの)併用を実験群に設定し、併用効果が検証されました。早期には化学療法併用群の生存率が上回るかに見えましたが、最終的には期待に反し、全体では放射線治療に化学療法を併用する利点を示すことができませんでした。しかし、今日高リスク群に分類される一群で、化学療法の併用が生存率を向上させることが示され、放射線治療と化学療法の併用治療が一般的になった。
③リスク分類の導入:次に北米で行われた臨床試験CCG921では、抗がん剤8剤を用いる強力な”8 in 1”治療と上記の化学療法のランダム化比較試験が行われた。開始前、強力な8 in 1治療の優位は明白であり、臨床試験を行うことが倫理的に問題であるとの強い批判があったといいます。「仮説は仮説である」ことの良い例で、予想に反し、強力な8in 1療法群は標準的化学療法群を上回ることがありませんでした。しかし、この試験の解析結果から腫瘍摘出術後の残存腫瘍の量、転移の有無により予後が大きく異なることが示され、臨床的リスク分類が提唱され広く用いられるようになりました。診断時に播種がなく術後残存腫瘍が画像上1.5cm2以下であるものを標準リスク群、それ以外を高リスク群とし、以後リスク群に層別化し治療目標を設定し、臨床試験が行われるようになった。
④標準リスク群の治療の進化:全脳脊髄照射(CSI)に用いられていた36-39.6グレイ(Gy)の線量では、治療後の内分泌障害や認知機能障害が重篤であったため、標準リスク群では、その軽減が試みられるようになった。北米の臨床試験POG 8631/CCG 923では、放射線単独治療で、標準リスク群髄芽腫を、コントロール群として36Gy、実験群としてCSIを23.4Gyに減量した2群のランダム比較試験が行われた。 減量群の無再発生存率(event free survival, EFS)が 大きく下回ることが早期に明らかになり、試験途中で中止とされました。36Gyの5年EFSが67%、23.4Gyでは52%、減量群では、早期再発が多く、原発部位以外の再発が多いことが明らかになりました。このため、化学療法を併用して、生存率を下げることなくCSIの減量を図る臨床試験が行われるようになりました。放射線治療後は、造血能抑制が強いため、強力な化学療法を一定期間に行うことが困難です。このため、ヨーロッパを中心に、腫瘍摘出後、放射線治療前に強力な化学療法を行うもの、あるいは放射線治療の前後化学療法を行うサンドイッチ療法と呼ばれる治療が試みられました。しかし、これらの方法では、術後ただちに放射線治療を行う場合に比較して再発率が高く、今日では腫瘍摘出後に一定期間内に放射線治療を行うことが重要であると考えられています。 このような中で、放射線治療後に、シスプラチン・ビンクリスチン・カルマスチン(CCNU)を併用した化学療法を用いたCCG A9892で、全脳脊髄照射の線量を23.4Gy減量しながら、5年EFSが78%達成され、その後行われた放射線後化学療法としてシスプラチン・ビンクリスチン・カルマスチンとシスプラチン・ビンクリスチン・エンドキサンを比較したCCG A9961では両群ともに5年EFSが80%を越えました。臨床試験の予後因子解析では、退形成性髄芽腫が、予後不良であることが示され、その後の臨床試験では高リスク群に分類され治療される傾向があります。
⑤強化照射の照射野縮小:CSIを23.4Gyに減量した後も、認知機能の障害があることが示され、全脳脊髄照射の線量をさらに減量する試みの他に、強化照射の照射野を後頭蓋窩から腫瘍床に縮小する試みが行われています。海馬や蝸牛への影響を軽減することが期待され、実際に全脳脊髄照射の線量を23.4Gyにして、上のように強化照射野を縮小することによりIQの低下が起きないことが示されています。
⑥高リスク群の治療:高リスク群では、全脳脊髄照射の線量に36〜39.6 Gy用いた場合でも、生存率は30〜50%程度であり、化学療法を併用し治療を強化し生存率を向上させることを目標に臨床試験が行われました。標準リスク群の治療と同様、放射線治療前の化学療法による強化は有効性を示すことができなかった。その後、放射線治療後に短期間に末梢血幹細胞移植を用いて強力な化学療法を繰り返すSt.Jude’96や、放射線治療増感効果を期待した放射線化学療法を採用したCOG 99703において5年無再発生存率が70%に達するようになっています。
⑦乳幼児髄芽腫:乳幼児例は年長児例に比べ予後不良で、3歳未満で全脳脊髄照射を用いた場合には、認知機能障害など後遺症が非常に重篤なものとなります。このため、乳幼児髄芽腫では生存率の向上と共に、放射線治療の3歳以降への延期や回避を目的に臨床試験が行われてきました。北米のCCGおよびPediatric Oncology Group(POG)は、3歳未満の患者に、化学療法を繰り返し、3歳まで放射線治療を延期して施行する臨床試験を行った。しかし、化学療法中の早期再発が多く、腫瘍を十分制御できないことが示された。この結果を受け、世界では次の様臨床試験が行われてきました。
a.大量化学療法を導入し、放射線治療の回避または延期をはかる(北米Head Start I〜III, 北米COG99703試験など)
b.早期に局所照射を導入し、化学療法と併用し治療を行う(北米ACNS 9934, HIT-SKK2000など)。
C.全身化学療法と同時に、抗がん剤の脳室内注入を行う(HIT-SKK 96, HIT-SKK 2000)。
HIT-SKK 96では、腫瘍が全摘された場合、放射線治療を回避して高い生存率を達成しました。病理学的にdesmoplastic/nodular typeの予後が、他の病型に比較して良好で、全体の予後の向上に寄与していることが明らかになりました。HIT-SKK 2000では、desmoplastic/nodular typeは化学療法のみで5年無再発生存率が90%、5年全生存率が100%となっています。この病理学的所見のインパクトは、治療方法に関わらず他の臨床試験結果でも共通して認められています。転移の有無と、この病理学的所見が最も予後を左右することが明らかにされ、これに従って層別化した乳幼児対象の臨床試験が計画されるようになっています。
⑧再発髄芽腫の治療:1990年代に、強力な化学療法と大量化学療法による救命の可能性が示唆され、世界で多くの臨床試験が行われました。この結果、腫瘍摘出後に近年の放射線治療・化学療法併用の治療を受けて再発した場合、強力な化学療法によって寛解となり大量化学療法にすすめるものは半数以下であること、大量化学療法を受けた場合も殆どがまた再発することが示され、大量化学療法の有用性は否定された。一方、これらの臨床試験で、多剤併用化学療法に抵抗性を示し、テモゾロミドやエトポシドによる化学療法をうけた例で、抗腫瘍効果を認め、長期生存例があることが示された。このため、テモゾロミドやエトポシドの経口抗がん剤治療を行い、良好な奏効を認める患者で、大量化学療法や放射線再照射により救命をめざすべきであると考えられています。
⑨外科的治療の役割:近年、腫瘍摘出後に約半数で小脳無言症cerebellar mutismといわれる合併症を認め、生涯にわたる認知機能障害として残る場合があることが明らかになっています。集学的治療の進歩の中で、まず診断時に播種を認める高リスク群では、最新の術後治療が用いる場合、術後の残存腫瘍の有無が予後を左右しないことが示されている。従って、水頭症の改善が期待できるまで腫瘍が摘出されれば、それ以上の摘出の必要はないと考えられます。標準リスク群では、術後に標準リスク群と評価できるまで腫瘍を減量することが目的です。小脳無言症などの合併症の問題に加え、術後一定期間内に放射線治療を開始することが予後を左右する可能性が高いため、術後治療の開始を遅らせるような合併症をおこさない配慮が重要です。
⑩分子生物学的分類の導入と今後の方向:近年の分子生物学的研究により、髄芽腫は遺伝子解析パターンからWnt(ウイント)、SHH(ソニックヘッジホック)、group3, group4の型に分類されることがコンセンサスとして発表され,これらの分類は従来の臨床的リスク分類以上に予後と相関する可能性が示されている。予後の良好なWnt群では、放射線治療を減量・回避できる可能性が示唆され、分子生物学的分類を一部導入した層別化を用いた臨床試験が計画されている。一方化学療法と放射線治療の強化には限界があると考えられ、SHHにたいするSMO阻害剤など、治療標的の探索と分子標的薬の開発、臨床試験が行われています。

上衣腫 Ependymoma

1.定義・概念・病因・病態・疫学

脳室を構成する上衣細胞から発生してくる腫瘍です。成人にも小児にも発症する腫瘍ですが、半数以上は小児期・思春期に発症します。小児脳脊髄腫瘍の6-10%をしめます。小児期ではテント下腫瘍(小脳テントより下)が最も多く、その他テント上、脊髄にも発症します。上衣腫は小児脊髄腫瘍の約25%を占めます。

2.臨床症状

1)テント下腫瘍では、第四脳室の腫瘍によって脳脊髄液の流れが遮られ、閉塞性水頭症を発症し、頭蓋内圧亢進の症状(頭痛、嘔気・嘔吐)と徴候(視神経乳頭の異常)を示す場合が多いです。他に脳神経の障害や、小脳失調症状(ふらつき)を認める場合があります。
2)テント上腫瘍では、頭痛、痙攣、や神経機能の障害で発症します。

3.診断

1)症状から腫瘍の存在を疑って、CTやMRI検査で病変を認めて診断がつきます。
2)特にテント下腫瘍の場合には、播種(転移)を認める場合があるので、手術前に脊髄造影MRI検査を行うことが必要です。
3)造影MRI検査では腫瘍に造影効果を認めますが、出血や壊死などによって不均一に造影されることが多いです。画像診断だけでは、小脳星細胞腫や髄芽腫と鑑別するのが困難な場合もあり、最終的には摘出した腫瘍の病理診断によって診断がつきます。

4.治療

1)外科的治療:腫瘍を完全に摘出することがとりわけ重要な病気で、摘出の程度によって生命予後(なおり方)が大きく異なります。腫瘍がしばしば脳幹部など周囲組織に浸潤しているために、摘出により複数の脳神経が障害される可能性が高く、術後気管切開や経管栄養を必要とすることもあります。初回の手術で残存した場合には、短期間の化学療法を行い、再度摘出を試みます。2回目の手術で腫瘍が摘出できれば、救命の望みが遙かに高くなるからです。最近になって、テント上の腫瘍では、完全に摘出できた場合、放射線治療などの後療法なく生存する可能性が示唆され、現在臨床試験で検証されています。
2)放射線治療:腫瘍の摘出だけでは再発する可能性が高く、手術の後に、放射線治療を行い、これにより再発率は減少することがわかっています。髄芽腫と異なり、再発する時には殆どが局所再発(もともと腫瘍があった場所への再発)で、播種(転移)再発は少ないため、放射線治療は、局所照射が採用される。原体照射法やIMRTといった新しい放射線治療方法により、総線量54-60グレイの局所照射が行われます。最近になって再発腫瘍に対して、腫瘍摘出と放射線再照射による救命の可能性が示唆されています。
3)化学療法:髄芽腫と異なり、上衣腫においては、これまで手術後の化学療法の有効性が示されたことがありません。治療の基本は、腫瘍の摘出と放射線治療であると考えられています。初回手術で腫瘍が残存した場合に、短期間の化学療法により、再摘出を促すことができることが報告されており、この化学療法の有用性が、欧米では臨床試験の中で検証されています。
乳幼児上衣腫では、放射線治療による障害を軽減するために、放射線治療の延期や回避を目的として、術後に最初に化学療法を行う臨床試験が行われてきました。しかし、その生存率は、どの臨床試験でも、手術後に直ちに放射線治療をおこなう場合に比べ低いものとなっています。一方、テント下の後頭蓋窩腫瘍の場合には、手術後に直ちに原体照射法を行った場合、認知機能障害は重篤なものではないとの報告があり、北米では1歳以上であれば、手術後ただちに放射線治療を用いる場合が多くなっています。
再発時には、化学療法は一定の期間腫瘍の勢いをおさえ、様々な症状を改善することがありますが、それだけで病気をなおすことは困難です。

5.予後

先に述べたように、予後(なおり方)は腫瘍の摘出の程度に大きく依存しています。腫瘍の完全摘出後に放射線治療を行った場合は、67-86%であるのに対して、部分摘出後に放射線治療を行った場合は、22-47%との報告がでています。

胚細胞腫瘍 germ cell tumour (ジャーミノーマ、絨毛がん、卵黄嚢腫瘍、胎児性癌、未成熟奇形腫、成熟奇形腫、混合性胚細胞腫瘍)

1.定義・概念・病因・病態・疫学

様々な組織に分化する能力(多能性)をもった原始胚細胞由来と考えられる腫瘍で、分化がすすみ悪性度は低いと考えられる成熟奇形腫から、悪性度の高い、未成熟奇形腫、ジャーミノーマ、絨毛がん、卵黄嚢腫瘍、胎児性癌、およびこれらの腫瘍のいくつかからなる混合性胚細胞腫瘍など、多様な腫瘍から構成される腫瘍群ともいうべき腫瘍です。最も多いのはジャーミノーマです。脳や脊髄以外の、中枢神経外に発症する胚細胞腫瘍と、病理学的にも生物学的にも共通した特徴をもっています。

2.臨床症状

1)発症部位では、松果体が最も多く、ついで神経下垂体部、大脳基底核に発症します。
2)松果体部腫瘍では、中脳水道という脳脊髄髄液の通り道を塞いで、水頭症で発症することが多く、頭痛・嘔吐で発症します。腫瘍が四丘体という部分を圧迫すると、眼科的な症状を認めます。
3)神経下垂体部の腫瘍では、抗利尿ホルモンの産生が抑えられて尿崩症を認めることが多いです。男子ではヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)産生腫瘍の場合には、思春期早発が出現し、女子では無月経で発症する場合もあります。このほか、下垂体ホルモンの欠落症状を認めることがあります。成長ホルモンの産生が欠落し、低身長の検査で発見されることもあります。腫瘍が進展し、両側の視神経が交差する視交叉までおよぶと、視野の欠損や、視力の低下などの眼科的症状を認めます。
4)大脳基底核の腫瘍は、手足の麻痺で発症することが多いです。

3.診断

1)症状から腫瘍の存在を疑って、CTやMRI検査で病変を認めて診断がつきます。上のhCGやα-フェトプロテインなど腫瘍マーカーの上昇する腫瘍では、その上昇が診断の根拠となります。
2)低身長や尿崩症などの下垂体ホルモンの欠損による症状、思春期早発、無月経、視野の異常や視力の低下、手足の麻痺で、小児科や内科、産婦人科、眼科、整形外科を最初に受診することが多く、その科の先生が脳腫瘍の可能性を疑って検査をすすめてくださることが診断のきっかけとなります。

4.治療

1)ジャーミノーマの治療:ジャーミノーマは、放射線治療にも化学療法にもよく反応する腫瘍です。放射線治療のみで治癒可能ですが、照射の範囲(照射野)と照射線量によっては、放射線治療による障害が問題になります。化学療法も有効な腫瘍で、化学療法によって、殆どがMRI上、腫瘍を認めない状態(寛解)になりますが、化学療法だけの治療では再発が6割を越えるために、多くの場合不十分であると考えられています。このため、診断のための手術(生検)をして診断を確定した後に、放射線治療と化学療法を併用しながら、放射線治療の照射野を狭く、線量を少なくして障害を軽減して治癒させる併用療法が主流になっています。
2)成熟奇形腫の治療:手術により腫瘍を摘出するのが原則です。全摘出できないと再発することがあります。化学療法や放射線治療には反応しないことが多いです。
3)未成熟奇形腫、絨毛がん、胎児性腫瘍、卵黄嚢腫瘍、悪性混合性胚細胞腫瘍の治療:腫瘍の生検によって診断確定後に化学療法・放射線治療を併用した治療が行われます。腫瘍マーカーの上昇を認める場合は、腫瘍が大きく緊急に治療を開始する必要がある場合には、生検を行わずに放射線治療、化学療法が行われる場合もあります。放射線治療の範囲(照射野)、線量と化学療法の内容・方法は、腫瘍の種類によってリスク分類を行い、これに従って治療が行われることが多くなっています。化学療法・放射線治療後に腫瘍が残っている場合には、腫瘍マーカーも正常化している場合には、成熟奇形腫成分が残っている場合が多く、可能であれば残存腫瘍を切除したほうがよいと考えられています。

5.予後

ジャーミノーマでは、放射線治療と化学療法を併用した治療でも5年生存率が90%を越えるようになっています。ジャーミノーマ以外の悪性度の高い胚細胞腫瘍でも、手術・放射線治療・化学療法を併用した、集学的治療により生存率の向上が認めら、60〜70%の5年生存率が達成され、なお向上が認められます。
内分泌学的合併症や眼科的な合併症は、治癒後も、後遺症として残る場合があり、ホルモン補充療法など、これらに対する治療が必要です。

頭蓋咽頭腫 Craniopharyngioma

1.定義・概念・病因・病態・疫学

1)頭蓋咽頭腫はラトケRathke嚢胞という人間の体が作られる途中の遺残物が異常発生することで発症すると考えられている鞍上部(トルコ鞍の上)に発症する腫瘍です。
2)小児中枢神経系腫瘍の6-10%を占めます。5-10歳に発症のピークがあり、発症率では男女に差は認めません。

2.症状

1)最も多い症状は第三脳室の圧迫により、脳脊髄液の流れが遮られておこる水頭症による頭蓋内圧亢進症状です。頭痛、嘔気・嘔吐を認めます。様々なホルモンを分泌する中枢である下垂体の機能を障害し、尿崩症や下垂体機能低下症症を起こすことがあります。思春期早発、思春期遅発の原因探索の検査診断にいたる場合もあります。視機能低下のみの発症もあり、診断がおくれると回復が不可能となる場合もあるので注意が必要です。

3.診断

1)症状から腫瘍の存在を疑い、CTやMRIなどの画像診断で腫瘍が描出され、診断に至ります。
2)CTでは石灰化を認めることがあります。腫瘍は実質成分(かたまりの部分)と嚢胞性の成分(ふくろ状の部分)をもち造影剤で造影される。周囲の組織の圧迫を認めることが多く、しばしば視床下部への浸潤を認めます。
3)症状が明らかではなくても、下垂体機能低下症を発症していることがあり、手術前に内分泌学的検査が必要です。最初から内分泌専門医の関与を求め、尿崩症や下垂体機能低下のある場合には、術前から補充治療を始める必要があります。尿崩症のある場合は、特に腫瘍摘出後の術後管理にも内分泌専門家の関与が必要です。
4)胚細胞腫瘍が鑑別診断にあがるため(区別をする必要があるため)、腫瘍マーカーの検査を行います。
5)本人が気付かないうちに、視野の異常や視力の低下など眼科的な障害がでていることがあるために、眼科学的評価を行います。
6)鑑別疾患(区別するべき病気)として、鞍上部に発生する視神経膠腫、胚細胞腫瘍、ラトケRathke嚢胞があげられます。

4.治療

1)外科的治療:可能な限り合併症を起こすことなく腫瘍を全摘する必要があります。重篤な合併症なく全摘出が可能である場合には、手術が適応となります。全摘出をすると下垂体の損傷など合併症・障害が重篤になることが予想される場合には、部分摘出して放射線治療を用います。この場合全摘出と同様に有効な治療といえるのかどうか議論になっており、確定されていません。
2)放射線治療:腫瘍の部分摘出あるいはドレナージのみの保存的治療が行われた場合、放射線治療を行うことで局所再発率を下げ、生存率を向上させることが可能であることがわかっています。5歳以上の場合には50-55 グレイの照射が、それ以下の場合には照射線量を軽減した局所照射が行われる。腫瘍が全摘された場合には、放射線治療は行わない場合が多いです。
3)化学療法:嚢胞性腫瘍の場合に、ブレオマイシンの嚢胞内注入が行われることがあります。点滴や、飲み薬の抗がん剤などによる全身化学療法で本疾患に有効なことが示されたものはありません。

5.予後

1)全摘出された場合の5年全生存率は80-90 %ですが、部分摘出の場合は50%程度です。部分摘出後に放射線治療を行った場合は62-84%と報告されています。
2)繰り返し手術が必要になる場合、QOLも低下し、生命も問題になります。下垂体機能低下の有無が、QOLのみならず生命予後にも影響するとの報告もあり、治療による下垂体障害を極力避けるべきであるとの主張があります。



非定型奇形腫様/ラブドドイド腫瘍Atypical teratoid rhabdoid tumor(AT/RT)

1.定義・概念・病因・病態・疫学

1) 2歳以下に発症する悪性度の高い腫瘍です。小脳テントより下の後頭蓋窩に発症することが多いですが、そのほかにも脳と脊髄のどこにでも発症します。
2)近年になって独立したひとつの病気として認められるになった病気です。その後、染色体11q22上のINI-1遺伝子という遺伝子の発現がこの腫瘍に欠けていることが明らかになり、INI-1遺伝子の発現の有無を調べて、正確に診断することが可能になりました。

2.症状

1)後頭蓋窩腫瘍(小脳テントより下の腫瘍)では、他の腫瘍と同様に、脳脊髄液の通り道が腫瘍によって遮られ、水頭症を併発して頭蓋内圧亢進症状で発症することが多いです。テント上腫瘍では、他の腫瘍と同様に、痙攣、頭蓋内圧亢進症状、神経機能の障害の症状で発症します。
2)発症から症状の進行が急激な場合が多いです。

3.診断

1)他の腫瘍と同様に、症状から腫瘍の存在が疑われ、CTやMRIなど画像検査によって腫瘍が指摘されて、診断されます。初期から播種(転移)を認めることがあるため、手術前には脊髄造影MRI検査も行う必要があります。
2)病理組織診断では、しばしば他の疾患との区別が困難です。特に乳幼児腫瘍の場合には、INI-1遺伝子発現の欠失を最初から検索しておくのが望ましいです。診断までに時間がかかると、その間にも腫瘍は進行し播種を起こしたりすることがあります。

4.治療

1)従来は、独立した病気とは考えられておらず、髄芽腫やPNETと同様に治療されていました。こうして過去に治療され、後になってAT/RTと診断がついた患者さんの登録研究が行われ、予後因子解析(何が経過の良い悪いを左右しているかの分析)から、腫瘍の切除の程度、早期の放射線局所照射の採用、大量化学療法の採用が予後良好の因子となる可能性が示唆されました。やがて、この病気を対象とした臨床試験で、横紋筋肉腫に対する北米の臨床試験IRS IIIを改変した治療(抗がん剤の全身投与、脳室内注入・髄注と放射線局所照射を併用)により、2年生存率が40%を越えるようになり、ヨーロッパでも同様のパイロット試験で生存率の向上が報告され新しい大規模共同試験EU-RHABが始まっています。今後の治療の向上が期待されます。
2)大量化学療法や放射線治療採用など治療の強化だけでは限界があると考えられ、臨床試験に伴い腫瘍登録研究、遺伝子解析研究が同時に実施され、治療標的探しと、分子標的治療薬の探索が行われています。

脈絡叢腫瘍 Choroid plexus tumors(脈絡叢癌、脈絡叢乳頭腫、非定型脈絡叢乳頭腫(ACPP))

1.定義・概念・病因・病態・疫学

脳脊髄液を産みだす脈絡叢(みゃくらくそう)と呼ばれる組織から発症するする非常にまれな腫瘍で小児脳脊髄腫瘍腫瘍の1-5%をしめます。脈絡叢乳頭腫、非定型脈絡叢乳頭腫、脈絡叢がんなど、悪性度の違ういくつかの腫瘍があります。半数は1歳未満で発症し、乳幼児に多いことが特徴です。発症部位では、側脳室に発症するものが70-80%と最も多く、他に第四脳室、第三脳室、小脳橋角部などから発症します。

2.症状と徴候

脳脊髄液を産生する組織から発症するという、病気の起源から予想されるように、この腫瘍では髄液が過剰に生産され、このため、髄液の流れが滞り、水頭症を起こします。乳児では大泉門の膨隆(ふくらみ)、頭囲の拡大を認めます。他の腫瘍の水頭症のときと同じように、頭痛、嘔気、嘔吐など頭蓋内圧亢進症状を示して発症します。

3.診断

1)臨床症状から腫瘍の存在を疑って、CTやMRIなどの画像診断を行い、画像診腫瘍の存在が明らかになります。診断には造影MRI検査が必要であるが、頭蓋内圧亢進症状がある場合に鎮静は、特に乳幼児では危険であり、注意が必要です。
2)造影MRIでは、腫瘍は脳室内の腫瘍でカリフラワーの小花状であり、その様子から診断しやすい場合が多いです。中でも、脈絡叢癌は、診断がつくころには、非常に巨大な腫瘍として描出される場合が多いです。
3)腫瘍は、血管に富み、出血しやすい腫瘍であるため、手術の前にMR血管造影(MRA)または血管造影検査を行います。
4) 病理組織学的には、悪性度の低いほうから高いものへの順で、脈絡叢乳頭腫choroid plexus papilloma(grade I)、非定型脈絡叢乳頭腫atypical choroid plexus papilloma(grade II)、脈絡叢癌choroid plexus carcinoma(grade III)があります。

4.治療

1)外科的治療:腫瘍を摘出することが第1選択の治療です。出血しやすい腫瘍であるために、術前に、腫瘍血管の塞栓術を計画することが多いです。脈絡叢乳頭腫は腫瘍の摘出のみで救命が可能性です。半数以上では、腫瘍の摘出後にも水頭症が続き、脳脊髄髄液の逃げ道を作るVPシャントが必要になります。
2)化学療法や他の治療:脈絡叢癌ではそのまま手術をすると、手術中の死亡率が高いため、手術の前に化学療法を行い摘出することがあります。化学療法により豊富な血管も少なくなり手術をしやすくなるためです。腫瘍が全て摘出できなかった場合は、もう一度手術をすることを考えます。摘出ができるほど、救命の可能性は高くなります。全摘出が困難な場合には、他の腫瘍と同様に、化学療法・放射線治療を併用した治療が行われます。

5.予後

脈絡叢乳頭腫の予後は良好である(良くなおる)のに対して、脈絡叢がんは周囲組織への浸潤から腫瘍摘出が困難なことが多く治療は困難です。しかし腫瘍を全て摘出可能な場合には良好な予後が期待できます。

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