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各疾患について
脳血管障害
主な脳血管障害
 
もやもや病
■どんな病気か
脳に血液を送る太い動脈は脳底部でつながって輪のようになっています。これがウィリス動脈輪と呼ばれています。この部分に狭窄や閉塞を起こしてくる病気です。代わりに、その周囲に脳血管撮影上で「もやもや」と煙のようにみえる細い血管が出来てくるので、「もやもや病」といわれます。
アジア人、特に日本人に多く、日本で申請された患者数はおよそ7,700人で、年間0.54人/10万人の発生率です。最近では脳ドックの普及により、無症状で見つかる人も増えてきています。未だに原因は不明で、厚生労働省の特定疾患:難病に指定されています。患者の約10%に家系内に同じ病気を持つ人がみられます。原因遺伝子の研究が行われていますが、異常部位は未だ特定されていません。発症年齢分布は5歳前後が最多で、次に30~40歳前後となります。女性が男性の約1.8倍です。
■診断
 特定疾患のため定められた診断基準があります。以前は脳血管撮影が必須でしたが、現在ではMRI・MRAで診断可能です。ウィリス動脈輪の狭窄・閉塞ともやもや血管が両側性に認められれば診断基準を満たし、難病申請が可能です。医療費公的負担制度を利用できます。
■症状
 最も多い症状は血管狭窄・閉塞が原因でおこる脳の虚血です。一過性の脳虚血発作で発症することが最も多く、数分から数十分の脳虚血発作を繰り返します。次ぎに多いのは脳梗塞で、成人になると脳出血での発症が増えてきます。出血はもやもや血管(細くて弱いため、など)からと考えられています。 一過性脳虚血発作の症状は、手足の脱力、しびれ、くり返す強い頭痛、けいれん、不随意運動(勝手に手や足が動く)などで、繰り返されますが、発作時以外は無症状です。小児では過呼吸が発作を誘因します。熱い食べ物を吹いて冷ましたとき、大泣きした時、急な激しい運動、ピアニカやリコーダーの演奏などです。発作時以外無症状でも、発作を長年繰り返すことで、成長期の脳、特に前頭葉への悪影響が指摘されています。早期発見が大事です。  脳梗塞や脳出血では障害された脳の部位と重症度により、運動マヒ、言語障害、意識障害などを呈します。脳出血は頭痛だけの軽症例から、大出血で重篤な後遺症が生じる場合や、生命予後が悪い例まで様々です。約30%で再出血して悪化する傾向があります。
■治療
 原因不明のため、根本的な治療方法はありません。 脳虚血に対しては血流改善目的の内科的投薬・外科的手術治療(血行再建術)が行われています。脳の血流状態が改善されれば、発作は消失し、脳梗塞のリスクも低下し、日常生活を不安なくおくることが出来ます。 出血発症例に対しては、血流改善による再出血予防効果が期待されて手術が行われる場合もあります。バイパス手術での再出血予防効果は全国調査での研究途中で、まだ実証されていません。 脳梗塞や脳出血が発症した場合には、急性期には一般の脳卒中に準じた対症療法やリハビリテーションが行われ、血行再建術の適応が検討されます。
*もやもや病といわれた方へ*
 当科では個人個人の方の病状や御希望に応じて、できるだけ安全で低侵襲な治療を心がけております。麻酔科や産科などとの協力体制、小児では小児混合病棟での入院による適切な環境を整えることもしております。セカンドオピニオンを聞きにいらっしゃるだけでも可能です。受診御希望の方は、当科外来まで御連絡ください。
■当施設での治療方針
[病態評価]
 MRI・MRA、3D?造影CT検査で血管形態の精密検査を行います。また、脳血流検査で脳血流動態を検討します。ここまでは外来で日帰り検査です。この結果、血行再建手術が必要と判断された場合には、入院して行う脳血管造影検査(カテーテル検査)を行い、さらに詳細に血管の状態を調べます。


 脳血流動態は脳血流検査(SPECT)で調べます。脳虚血の特徴は、「脳循環予備能」の低下です。安静時にはもやもや血管などの側副血行路からの血流により、脳血流は比較的良く保たれていますが、脳血流増加を要する状況で安静時以上の脳血流増加が得られないと、一過性脳虚血発作や脳梗塞が起きると言われています。この「脳循環予備能」は、脳血流検査(SPECT)の安静時と負荷時を比較することで評価出来、手術の必要性が判断できます。当院のSPECT検査は、約90分間で安静時と負荷時の両方の検査を行うことが出来ます。これも外来で、日帰りで可能です。
 脳血管撮影では、MRAや3D-CTA以上に精密に脳血管の形態を調べることが出来ます。しかし、小児では脳虚血発作を誘発するために、検査時のH泣を鎮静する必要や、恐怖心を除外する配慮などから麻酔が必要となるなど、侵襲的な検査となります。3D-CTA(造影CT脳血管検査)検査で、手術に必要な情報としての脳血管の様子、頭皮内の浅側頭動脈の走行を描出することは可能です。脳血管カテーテル検査に麻酔を要する場合や、脳虚血の程度が強いなど、検査の施行自体にリスクが高い場合には敢えて施行していません。手術後、病態が落ち着いて、小児期を過ぎてから、もやもや血管に認められる仮性動脈瘤の有無の検索などの必要性から、病態に応じて脳血管撮影を行うことにしています。成人では、仮性動脈瘤の頻度が高いと言われているため、その確認が必要で、手術前には必要な検査となります。
 当院では手術室内に脳血管撮影装置があります。このため、検査に不安がある方や、小児でも医学的理由から検査が必要な場合には、手術施行と同時に同室で、全身麻酔がかかってからの検査が可能で、安全に行えます。
 知能検査を小児、成人の術前、術後に施行して評価しています。目に見えない症状として、高次機能障害もあるからです。小児では手足の麻痺を呈する一過性脳虚血発作以外に、前頭葉の慢性的な脳血流障害の長期持続による知能低下が生じるリスクが知られているからです。
[内科的治療]
 術前、術後、および手術をせずに通院で経過を診ている方に対して、効果が認められている抗てんかん薬、抗血小板剤、血管拡張薬、抗凝固剤などの薬剤を、一人一人の患者さんの症状や病態に応じて個別に対応して処方しています。成人では脳出血のリスクがあるため、抗血小板剤、血管拡張薬、抗凝固剤の投与に関しては特に慎重に検討しています。また、抗てんかん薬にも副作用がありますので、適宜、投与量や投与期間について個々に対応しています。
[外科的治療]
 対象は虚血発症型の小児、成人です。出血発症では、バイパス手術による出血予防効果は証明されていませんが、初回出血後の後遺症が全く無い、或は軽度で、血流動態で脳虚血の程度が強い場合には、手術を行うこともあります。小児では手足の麻痺を生じる一過性脳虚血発作の停止目的での手術だけでなく、血流障害部位に応じて適切な範囲で手術を行うことが大切です。成長期に重要な知能低下の予防には前頭葉への対処が必要だからです。前頭葉に脳血流障害を認めた場合には、前頭葉も含めた範囲で手術を行うことで、脳血流動態の改善による発作の消失、脳梗塞予防効果だけでなく、長期的な知能予後においても良好な結果が得られています。
*手術方法*
 もやもや病の手術方法は、歴史的な変遷を繰り返して様々な手技が個々の施設で行われています。根本的な考え方は、手足の麻痺につながる中大脳動脈領域の血流動態改善が第一目的で、小児ではさらに前頭葉の血流動態改善という目的が加わります。 頭皮内を走行している浅側頭動脈を頭蓋内の脳表血管に吻合する直接血行再建術(バイパス手術)と、血管が豊富な側頭筋や硬膜、帽状腱膜などを脳表に移動する間接血行再建術があります。間接血行再建術は、脳表に移動された組織から血管新生がおこり、血液が頭蓋外から脳に流入するという、この疾患特有の現象を利用した方法です。両者の違いは、直接バイパス手術では血流改善効果が吻合直後から得られるのに対して、間接的手術では血管新生までに3週間から1ヶ月という時間的な差です。従って、新生血管形成能が小児ほど確実でないと推測されている成人や、小児でも重症例で血流増加を急ぐ場合には直接バイパス手術が必要です。前頭葉に対して、浅側頭動脈の前頭枝を用いて2つ目の直接血管吻合を行う方法もありますが、知能予後の考慮という目的からは、血流改善に即効性は求めないと考えて、当科では前頭葉に対しては間接的手術を行い、手術時間を短縮して手術侵襲を低くしています。また、退院後の早期社会復帰、小児では成長期での心理的影響を考慮して、男女ともに、ほぼ無剃毛での手術を行っております。
*手術後の経過*
 術後約2週間で自宅退院となります。術後の血管吻合の状況はMRAで確認出来ます。また新生血管の形成も、術後1〜2ヶ月位にはMRAで確認できる様になります。脳血流の改善状況も脳血流検査(SPECT)で確認出来ます。脳血流動態が改善されると「もやもや血管」が消退していくのがMRAでもわかります。
 術後合併症として、一過性脳虚血発作、脳梗塞、痙攣、脳出血などが有ります。当科では2004年以降、51人、64回のバイパス手術が施行されました。手術のストレスが原因の一つと考えられる、術後入院期間中の脳卒中の発生状況は、脳内出血が3人、脳梗塞が1人にみられました。出血の方2名は予後が悪化しています。他の2名に変化はありません。直接の予後不良因子にはなりませんが、術後約1週間の間には、一過性脳虚血発作の頻度が一時的に増える方や、痙攣を起こす方もいます。発作は1週間過ぎ頃から減少して退院時には消失しています。痙攣は入院中1~2回で、脳梗塞が既にあった方に多い傾向にあります。このため予防的に抗けいれん薬を術前内服しておく場合もあります。
 退院後の経過では、一過性脳虚血発作の症状は全例で消失しています。頭痛もこの疾患の虚血症状である場合があります。術前に強い頭痛発作を訴えていた方が、術後に頭痛が消失したという方も少なくありません。また、脳梗塞に関しては、脳梗塞の新たな発症はなく、再発もありません。再出血は初回から2年前後に最も多いといわれていますが、手術した方、病態検討後に手術無しで外来通院中の方、両者ともに現時点では再発はありません。
 脳血流動態が改善されれば、日常生活は障害なく普通におくることが出来ます。学校生活、職業に制限はありません。女性に多い病気ですが、妊娠に関しても、脳神経外科と産科が共同で管理を行うことで、安全に行われています。
 当科では、診断、病態検査、治療方針の検討、手術の場合には術式の選択、投薬治療の場合には処方内容の検討、など、患者さん一人一人の病態に最も適した方針を選択できる様に、必要かつ最低限の検査と出来るだけ低侵襲な手術方法で治療効果があげられる様に努めております。また、脳ドックの普及により、偶然病気が見つかる方も増えています。無症状の方でも外来で一通りの検査を施行して病態評価を行った上で治療方針を決めています。


手術担当医師:渡邊充祥

経歴
2007年(平成19年) 東京慈恵会医科大学 卒業
2009年(平成21年) 東京慈恵会医科大学附属病院 脳神経外科入局

*認定資格
日本脳神経外科専門医

*所属学会
日本脳神経外科学会 日本脳神経血管内治療学会 日本脳卒中学会

*専門領域
脳血管障害の治療と研究
・もやもや病の手術と研究 ・脳血流動態の数値流体力学を用いた解析
・脳血管内治療全般
・脳血管内治療材料の開発
・再生医療の研究