東京慈恵会医科大学附属病院 脳神経外科Department of Neurosurgery Jikei University School of Medicine

〒105-8471
東京都港区西新橋3-19-18
TEL:03-3433-1111
FAX:03-3459-6412
nougeka@jikei.ac.jp

脳血管障害

慈恵医大では、世界に先駆け導入した血管撮影装置を組み込んだハイブリッド手術室を活用し、脳血管障害に対して
より精度の高い手術を行っています。血管内治療と開頭手術を組み合わせることにより、術中の血管撮影やCT画像撮影などを行って、
安全で確実な手術を行っています。動脈瘤治療に関しては2003年の血管内治療センター設立から約3200人の患者さんが外来通院しており、
開頭手術と血管内手術を併せて年間約200件の手術を行っています。また、動静脈奇形や動静脈瘻、頸動脈狭窄症、
もやもや病などの治療も、最新の血管撮影装置を駆使し、安全と正確性を重視して行っています。
 2015年より脳卒中センターが設立され、24時間365日脳血管障害の救急に対応出来る体制を備えています。

脳動脈瘤

当院における脳動脈瘤患者数

毎年約300人の動脈瘤患者さんが当科を受診し、そのうち約3人に一人の患者さんが治療を受けております。2003年の血管内治療センター設立から約3200人の脳動脈瘤患者さんが外来を受診し、治療・未治療に関わらずその後も当科にて経過観察を行っています。

脳動脈瘤手術件数

脳動脈瘤 手術件数

2012年

2013年

2014年

2015年

2016年

脳血管内治療塞栓術

128

156

167

164

142

開頭クリッピング術

28

32

38

43

30



脳動脈瘤コイル塞栓術について

脳動脈瘤運に対する血管内手術は1990年カリフォルニア大学ロサンゼルス校において開発されたGulielmi Detachable Coil ®(GDC)の出現によって急速に拡大しました。GDCはプラチナ製の柔軟なコイルがステンレス製のガイドワイヤーに接続されたものであり、放射線投透視下にマイクロカテーテルを介して脳動脈瘤内に留置されます。コイルが動脈瘤内で適正な位置で固定されるまで何度でもカテーテルから出し入れをすることが可能であり、最終的に適切な位置に留置されたことを確認した後、通電によりステンレスワイヤーより切り離します。現在10種類を超える様々なコイルが各種医療機器メーカーより販売され、臨床上使用されています。さらに最近では生体吸収性ポリマーでコーティングされたコイル(マトリックスコイル®:日本ストライカー)も使用されており、治療された動脈瘤の再開通予防に対する効果が期待されています。



脳動脈瘤に対する治療選択(開頭手術と血管内治療の比較)

2002年にLancetより報告されたInternational Study of Aneurysm Therapy(ISAT)では破裂脳動脈瘤における開頭手術と血管内治療による手術成績が比較されました。開頭クリッピング術、血管内治療どちらの治療法も適当と判断された破裂脳動脈瘤患者を無作為に開頭手術群(1070例)と血管内治療群(1073例)に振り分け、治療後2ヶ月、1年後、の治療成績を評価しました。一年後の「自立不能ないし死亡」例を比較した場合、血管内治療群では801例中190例(23.7%)であり、開頭手術群では793例中243例(30.6%)と血管内治療群の予後が開頭術に勝るという結果でした。また開頭術に対して脳血管内治療の相対的 / 絶対的なリスク減少率はそれぞれ22.6% / 6.9%でした。

未破裂脳動脈瘤に対して同様の比較を行った無作為臨床試験はありませんが、現在までのさまざまなデータの蓄積により、一般的な見解としては“血管内治療で再開通(再発)の頻度がやや高い傾向にあるものの、いずれの治療法でも長期予防効果がある”と考えられています。

外科的治療適応

脳動脈瘤の外科的治療の目的は「破裂予防」と「不安の軽減」です。
当院ではこの2点を重視して外科的治療の適応を決めています。その適応基準の一つが発見時の脳動脈瘤のサイズです。
近年未破裂脳動脈瘤の破裂率に関しての研究データが数多く発表されております。また我々の施設内でのデータを解析した結果、脳動脈瘤の破裂率は“場所”と“大きさ”に相関することがわかってきました。
我々の施設では、5mm以上の大きさである脳動脈瘤に対して外科的治療の適応を検討しています。当院では経過観察を施行した脳動脈瘤の破裂に関する研究を行っております。10年間に蓄積された1960個の動脈瘤の解析の結果、2-4mmの動脈瘤は年間破裂率0.3%、5-6mmのサイズの動脈瘤は年間破裂率3.1%、7-9mmで2.9%、10-24mmのサイズは10.2%でした。従いまして、原則的には5mm以上のサイズの動脈瘤に対して外科的治療を検討しています。しかしながら、5mm未満であっても、観察中に増大、変形をきたした場合は手術を検討したほうが良いと判断しています。
また、脳動脈瘤が発見されたことで、破裂に対する懸念から日常生活に不安が生じ、それまでの日常生活に支障をきたしている場合、もしくは経過観察することに対する心配が強い場合などは、動脈瘤が小さくとも外科的治療を検討したほうが良い場合があります。
このように脳動脈瘤の外科的治療適応に関しては、様々な要因が関わりますので、時間をかけて理解していくことが大切です。

術前の評価:CTもしくはMRIにて動脈瘤が指摘された場合、血管内治療の治療戦略を立てるために手術に追加の画像検査を試行することがあります。3次元構築できる3D CT Angiographyや、3DDSA機能を利用し、術前に動脈瘤の3次元的形態を正確に評価します。

治療方法

開頭脳動脈瘤クリッピング

開頭クリッピング術

近年の開頭クリッピング術の治療成績も向上しています。特に比較的脳の表層に存在する脳動脈瘤 (中大脳動脈動脈瘤、前大脳動脈動脈瘤)などで血管内治療が困難と判断された症例は開頭クリッピング術をお勧めすることがあります。当院では開頭クリッピング術も脳血管内治療同様 Hybrid 手術室で行います。Hybrid ORにはナビゲーションシステム、術中血流が確認可能な手術用顕微鏡、脳血管撮影装置が装備されていて、治療の安全性を最大限に優先した手術を行っています。





まとめ

脳動脈瘤に対する脳血管内治療は、従来からの開頭手術に匹敵する治療法として認知されつつあります。当院では積極的に本治療法を導入し、治療成績の向上に努めてまいりました。また脳血管内治療のみならず、開頭クリッピング手術も年々増加しており、両者において良好な治療成績をも維持しています。2003年、世界に先駆けて当院からのコンセプトにより発信、構築された「Hybird 手術室」は、いまや世界中の病院で導入され、脳神経外科手術には必要な手術室になりつつあります。当院のHybrid手術室は、今も整備を繰り返し進化しています。患者さんにより安全な治療を提供するための最大の努力をしております。

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脳動静脈奇形

脳動静脈奇形(AVM)とは

先天的な病気と言われており、母体にいるときから、既に形成されていると考えられています。本来、人間の血管の構造には、大きく分けて「動脈」と「静脈」があります。心臓から酸素をたっぷり含んだ血液は、「動脈」を通って、脳、腎臓、肝臓などの臓器に送られ、臓器の中の「毛細血管」という構造に入ります。ここで組織に酸素を送り、不要な二酸化炭素を吸収しながら、「静脈」へと流れ、心臓に血液が戻っていきます。また、この「毛細血管」を血液が通ることにより、「動脈」を通ってきた血液の圧が下がり、「静脈」を流れる血液の圧が低くなります。AVMにおいては、脳の血管構造の一部で、「毛細血管」を介さずに「ナイダス」と呼ばれる異常な血管網を介して、「動脈」と「静脈」が交通しています。このために、本来は低圧系である「静脈」の中を圧が下がっていない「動脈血」が流れる状態になっています。このために、高圧に慣れていない「静脈」が拡張して太くなったり、静脈瘤を形成して破裂をしたりすることで、脳出血やくも膜下出血を来すことがあります。また、AVMの部分は、血流が非常に多く早くなるため、周囲の正常脳への血流を奪い取ってしまうことがあり、これによる正常脳の慢性的な血流低下をきたし、二次的に脳組織の変性を来たし、痙攣発作を起こすこともあります。



症状

上記のように、出血や痙攣が多く見られる症状ですが、それ以外にも脳梗塞や慢性頭痛が見られることもあります。

治療

まず、治療を行う目的ですが、致死的な結果となりうる、脳出血やくも膜下出血を予防することが、最大の目標となります。特に、一度出血を起こした動静脈奇形は、ある一定期間は再出血の危険性が高くなると言われており、より積極的に治療をお勧めしています。痙攣発作の予防に関しては、治療により発作の予防効果が望める場合もありますが、当院では痙攣予防のみを目的とし多治療は、積極的には行っておりません。

治療法

一般的には、「集学的治療」と言われる、いくつかの治療を組み合わせた方法がとられます。いくつかの治療の中に「外科的摘出術」「血管内手術(塞栓術)」「放射線外科」が含まれます。

外科的摘出術

その名の通り、開頭してAVMを摘出する方法です。摘出した直後から、出血や再出血の危険性はなくなるため、もっとも短期間で根治が得られる治療法です。顕微鏡を用いながら、周囲の正常な脳組織から剥離して摘出しますが、AVM自体が血管の固まりであるため、摘出に際して非常に繊細な手技を要します。重要な機能を有する脳に存在する病変や巨大な病変などに対しては、本治療法を選択することが困難な場合もあります。



血管内手術

いわゆるカテーテル治療のことを言います。細いカテーテルを、AVMを栄養している動脈へ誘導して、「塞栓物質」と呼ばれるものを使用して、AVMへの血流を遮断する方法です。「塞栓物質」は、nBCAと呼ばれる医療用の接着剤や、Onyxと呼ばれるポリマーが多く使用されます。 脳を直接触る手術ではないため、患者さんへの負担は少ない治療ですが、この治療のみでAVMを完治させることは困難です。このため、外科的摘出術や放射線外科治療の前段階の治療として、サイズを縮小させたり、血流を減少させることを目的に行われることが多い方法です。



放射線外科

ガンマナイフやサイバーナイフと呼ばれる、特殊な放射線照射の機械でAVMに放射線を当てて、消失させる方法です。脳や血管を直接触る手術ではないので、患者さんへの負担は最も少ない方法と考えられます。摘出術に向いていない病変などに対して行われることが多い治療法です。放射線を当ててから、病変が完全に消失するまでに、2-3年程度かかると言われており、この間は出血を起こす危険性があります。また、大きな病変への治療は困難であることが多く、血管内手術で病変のサイズを縮小してから、放射線照射を行う必要がある症例もあります。



当院での治療

CTやMRIに加えて、脳血管撮影を施行した上で、治療方針を決定しています。出血を起こしていないものに関しては、敢えて治療をせずに、経過観察を行う場合もあります。安全に摘出可能と判断できる病変に関しては、血管内治療による塞栓術を併用して、外科的摘出術を行います。摘出術が困難ですが、治療が必要と判断される病変に関しては、塞栓術を行った後に、放射線治療を行うことをお勧めしています。 当施設には、ガンマナイフやサイバーナイフが設置されておりませんが、関連施設にご依頼させて頂き、治療前後のフォローを綿密に行っております。

治療実績

2012年までに、132例のAVM患者さんが外来を受診され、このうちの約6割の患者さんが、何らかの治療を受けられています。このうちの半数の患者さんが、血管内治療を行った後に、放射線外科治療を施行されています。この結果、照射後3年以上経過した患者さんの約8割で病変の完全消失が確認されています。

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硬膜動静脈瘻

硬膜動静脈瘻(dAVF)とは

頭の中にある、非常に太い静脈である「静脈洞」と、「動脈」とが、様々な原因で直接交通してしまう病気です。これにより、圧の高い動脈の血液が、本来は圧が低い静脈に流れ込むことになり、静脈洞の中の圧が上がってしまい、脳のうっ血をきたしてしまいます。 このうっ血が原因となって、脳出血や痙攣などの症状が出現する場合があります。

出来やすい場所



治療法

一般的には、カテーテルを用いた脳血管内手術を行っています。脳のうっ血を解消するために、「動脈」からカテーテルを入れて、「静脈洞」に入っている動脈を閉塞する方法(経動脈的塞栓術)と、「静脈」からカテーテルを入れて静脈洞そのものを閉塞する方法(経静脈的塞栓術)の2つの方法があります。



経動脈的塞栓術

上図のように、何本もの動脈が関与していることが多く。全ての動脈を塞栓する必要があります。
一般的に根治させることは難しいとされています。

経静脈的塞栓術

静脈側からですと、何本もの動脈が入ってくる「瘻孔」を、一網打尽で塞栓することができ、
根治させることができます。

全ての病変を、経静脈的に塞栓することが出来る訳ではないので、場合によっては、経動脈的治療を行い、定期的に画像フォローを行う場合もあります。

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内頚動脈狭窄症

頚動脈狭窄症、頚動脈内膜肥厚について

頸動脈狭窄とは、脳に入る主要な血管である頸動脈が、動脈硬化により血管の壁が厚くなる(頚動脈内膜肥厚*1)ことです。これにより、血管のとおりが狭くなり(頚動脈狭窄)、脳に入る血液の流れがとどこおる状態となります。この狭窄が高度になるにつれて将来的に脳梗塞 (*2)を起こす可能性が高くなります。高度な狭窄のために脳への血流が低下する、または狭窄部分の不安定な血流によって作られた小さな血栓が脳の血管に詰まることなどによって脳梗塞が生じやすくなると考えられます。そのため、頚動脈狭窄と診断された場合には、脳血管障害を専門する脳神経外科の受診をし、今後の治療方法に関して相談することをお勧めします。

治療方法(*3)には頚動脈内膜剥離術(CEA)(*4)と頚動脈ステント留置術(CAS)(*5)などの手術加療が必要な場合と、生活習慣病の治療(*6)で経過観察を行う場合が有ります。まずは専門医の診断を受けていただいて適切な治療方針を決める必要が有ります。当科では、年間およそ100例の新患の頸動脈狭窄症の患者さんに対して、手術加療のみならず頸動脈狭窄のプラーク性状診断に基づいた適切な総合的な治療方針を提示しています。

診断

一時的な脳梗塞症状が生じた場合、その原因を調べる過程で必ず頸動脈狭窄を調べる必要があります。検査方法は頸動脈超音波検査、頚動脈MRA、頚動脈造影CT等があります。まずは侵襲性が低いと思われる超音波やMRAで診断される例が多いです。また 最近は脳ドック等で行われる頚動脈超音波検査で頚動脈狭窄もしくは頚動脈内膜肥厚*1を指摘される例も増えています。

頚動脈内膜肥厚(*1)

超音波検査で診断される例が増えています。全身の動脈硬化の進展の程度を示しているといわれています。超音波検査で頸動脈の血管の膜の厚みを測定します。正常であれば頚動脈の血管の膜の厚みは1.1mmです。動脈硬化が進展することによって厚みを増し、血管の狭窄を生じます。一度肥厚した血管内膜は正常化する事は少ないため、内膜肥厚を指摘された場合には、それ以上進展しないような生活習慣病の管理が大切になります。

生活習慣病の管理が大切(*6)

喫煙、糖尿病、高血圧、高脂血症、高尿酸血症(痛風)などが原因となり頚動脈狭窄が進行します。頸動脈の膜のなかに、コレステロール、繊維、カルシウム、微小な出血の固まりが少しずつたまり厚みが増して、血管内腔を狭窄していきます。そのため、このような生活習慣病を治療することが頸動脈狭窄の進行を予防する上で一番大切になります。

頚動脈狭窄の症状(*2)

少しずつ膜の厚みが増していくため、軽度であれば、ほとんど症状を呈することはありません(無症候性)。ただし、頚動脈の超音波検査などを行うと、膜の厚みが増していることが詳細に判断できます。頚動脈の狭窄の状態は、「狭窄度」(どの位せまいか?)によって評価しています。狭窄度が高いと、脳梗塞の症状を出す可能性があります(症候性)。 これらの症状は血液の通りが悪くなる事によって、脳に血液が入りづらくなることと、狭窄している部分に小さな血液の固まり(血栓)が生じて、それが脳の血管に詰まることによって起こると考えられます。

頚動脈狭窄によって起こりうる症状は次のような症状があります。
・一過性の脳梗塞症状(一過性脳虚血発作)麻痺、言葉が出ない(失語)、呂律がまわらない等
・一時的に突然眼の前が暗くなり改善する(一過性黒内障)

一過性脳虚血発作

脳梗塞には様々な症状があります。主に麻痺、失語です。これは、狭窄している動脈と反対側の手足に、麻痺が生じます。初期には体が傾く、手足の力が入りにくいなどの症状のため気づかないことがあります。特徴として、手足の両方に症状がでる事が特徴です。失語は言葉が出ない状態を指します。これは左の内頸動脈狭窄症の場合に特徴的です。そのほか脳梗塞の症状として手足のしびれ、言葉のもつれ(構音障害)があります。これらが一過性(一時的)に出現することを一過性脳虚血発作と呼びます。

一過性黒内障

飛蚊症とは少し違いますが、一過性脳虚血発作に似た一過性黒内障と言うものにも注意が必要です。一過性黒内障とは、片側の目の視力障害が急速に起こって、普通10分以内で回復するものを言います。視力障害とは、例えば、片側の視野の一部もしくは全部に「急に影が見えるような感じがした」、「急にカーテンを引いたように暗くなった」と言うような訴えがよくみられます。この一過性黒内障は頚動脈に動脈硬化によって起こった挟窄があって、この頚動脈がつまりかけている場合によく起こります。つまり頚動脈の挟窄部に出来た小さな塞栓(小さな血液の塊)がはがれて、目の網膜へ行く動脈の方に時々流れて行って、その血管の血液の流れが一時的に途絶えて起こると考えられています。

手術方法について(*3)

頚動脈を切開して血管の中の動脈硬化の部分を剥離してくる「頚動脈内膜剥離術(CEA)」と血管の中から金属の筒を内張りのように留置して、押し広げる「頚動脈ステント留置術(CAS)」の両者があります。

頚部内頸動脈内膜剥離術(CEA) (*4)

全身麻酔で頚部の皮膚を切開して頚動脈を露出します。総頸動脈、外頸動脈、内頸動脈にそれぞれ遮断を行った後に動脈に切開を加えます。その後、動脈硬化部分(プラーク)を削いでいきます。



頚動脈ステント留置術(CAS)(*5)

局所(部分)麻酔でカテーテルを大腿動脈から頚動脈まで進めます。 動脈硬化のかす(デブリス)がはがれて、脳の血管につまらないように、狭窄部の向こう側に遠位塞栓予防デバイスを一時的に留置します。現在は、一時的に血流を遮断しないよう、フィルター型のものを用いています。狭窄部をわずかに拡張させた後、ステントが入ったカテーテルを誘導し、展開します。その後さらにバルーンでステントを血管の壁に密着させます。最後にフィルターを回収して手技を終了します。 頚動脈狭窄に関しては適切な診断と治療方針が、脳梗塞を予防するためには重要になります。専門的な範囲に関しては直接医師からの説明を聞いて正しい理解をする事が大切です。



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もやもや病

脳に血液を送る太い動脈は脳底部でつながって輪のようになっています。これがウィリス動脈輪と呼ばれています。この部分に狭窄や閉塞を起こしてくる病気です。代わりに、その周囲に脳血管撮影上で「もやもや」と煙のようにみえる細い血管が出来てくるので、「もやもや病」といわれます。

アジア人、特に日本人に多く、日本で申請された患者数はおよそ7,700人で、年間0.54人/10万人の発生率です。最近では脳ドックの普及により、無症状で見つかる人も増えてきています。未だに原因は不明で、厚生労働省の特定疾患:難病に指定されています。患者の約10%に家系内に同じ病気を持つ人がみられます。原因遺伝子の研究が行われていますが、異常部位は未だ特定されていません。発症年齢分布は5歳前後が最多で、次に30~40歳前後となります。女性が男性の約1.8倍です。



診断

特定疾患のため定められた診断基準があります。以前は脳血管撮影が必須でしたが、現在ではMRI・MRAで診断可能です。ウィリス動脈輪の狭窄・閉塞ともやもや血管が両側性に認められれば診断基準を満たし、難病申請が可能です。医療費公的負担制度を利用できます。

症状

最も多い症状は血管狭窄・閉塞が原因でおこる脳の虚血です。一過性の脳虚血発作で発症することが最も多く、数分から数十分の脳虚血発作を繰り返します。次ぎに多いのは脳梗塞で、成人になると脳出血での発症が増えてきます。出血はもやもや血管(細くて弱いため、など)からと考えられています。 一過性脳虚血発作の症状は、手足の脱力、しびれ、くり返す強い頭痛、けいれん、不随意運動(勝手に手や足が動く)などで、繰り返されますが、発作時以外は無症状です。小児では過呼吸が発作を誘因します。熱い食べ物を吹いて冷ましたとき、大泣きした時、急な激しい運動、ピアニカやリコーダーの演奏などです。発作時以外無症状でも、発作を長年繰り返すことで、成長期の脳、特に前頭葉への悪影響が指摘されています。早期発見が大事です。 脳梗塞や脳出血では障害された脳の部位と重症度により、運動マヒ、言語障害、意識障害などを呈します。脳出血は頭痛だけの軽症例から、大出血で重篤な後遺症が生じる場合や、生命予後が悪い例まで様々です。約30%で再出血して悪化する傾向があります。

治療

原因不明のため、根本的な治療方法はありません。 脳虚血に対しては血流改善目的の内科的投薬・外科的手術治療(血行再建術)が行われています。脳の血流状態が改善されれば、発作は消失し、脳梗塞のリスクも低下し、日常生活を不安なくおくることが出来ます。 出血発症例に対しては、血流改善による再出血予防効果が期待されて手術が行われる場合もあります。バイパス手術での再出血予防効果は全国調査での研究途中で、まだ実証されていません。 脳梗塞や脳出血が発症した場合には、急性期には一般の脳卒中に準じた対症療法やリハビリテーションが行われ、血行再建術の適応が検討されます。

もやもや病といわれた方へ

当科では個人個人の方の病状や御希望に応じて、できるだけ安全で低侵襲な治療を心がけております。麻酔科や産科などとの協力体制、小児では小児混合病棟での入院による適切な環境を整えることもしております。セカンドオピニオンを聞きにいらっしゃるだけでも可能です。受診御希望の方は、当科外来まで御連絡ください。

当施設での治療方針

MRI・MRA、3D-CTA(造影CT脳血管検査)検査で血管形態の精密検査を行います。また、脳血流検査で脳血流動態を検討します。ここまでは外来で日帰り検査です。この結果、血行再建手術が必要と判断された場合には、入院して行う脳血管造影検査(カテーテル検査)を行い、さらに詳細に血管の状態を調べます。



脳血流動態は脳血流検査(SPECT)で調べます。脳虚血の特徴は、「脳循環予備能」の低下です。安静時にはもやもや血管などの側副血行路からの血流により、脳血流は比較的良く保たれていますが、脳血流増加を要する状況で安静時以上の脳血流増加が得られないと、一過性脳虚血発作や脳梗塞が起きると言われています。この「脳循環予備能」は、脳血流検査(SPECT)の安静時と負荷時を比較することで評価出来、手術の必要性が判断できます。当院のSPECT検査は、約90分間で安静時と負荷時の両方の検査を行うことが出来ます。これも外来で、日帰りで可能です。

脳血管撮影では、MRAや3D-CTA以上に精密に脳血管の形態を調べることが出来ます。しかし、小児では脳虚血発作を誘発するために、検査時の渧泣を鎮静する必要や、恐怖心を除外する配慮などから麻酔が必要となるなど、侵襲的な検査となります。3D-CTA(造影CT脳血管検査)検査で、手術に必要な情報としての脳血管の様子、頭皮内の浅側頭動脈の走行を描出することは可能です。脳血管カテーテル検査に麻酔を要する場合や、脳虚血の程度が強いなど、検査の施行自体にリスクが高い場合には敢えて施行していません。手術後、病態が落ち着いて、小児期を過ぎてから、もやもや血管に認められる仮性動脈瘤の有無の検索などの必要性から、病態に応じて脳血管撮影を行うことにしています。成人では、仮性動脈瘤の頻度が高いと言われているため、その確認が必要で、手術前には必要な検査となります。

当院では手術室内に脳血管撮影装置があります。このため、検査に不安がある方や、小児でも医学的理由から検査が必要な場合には、手術施行と同時に同室で、全身麻酔がかかってからの検査が可能で、安全に行えます。

知能検査を小児、成人の術前、術後に施行して評価しています。目に見えない症状として、高次機能障害もあるからです。小児では手足の麻痺を呈する一過性脳虚血発作以外に、前頭葉の慢性的な脳血流障害の長期持続による知能低下が生じるリスクが知られているからです。

内科的治療

術前、術後、および手術をせずに通院で経過を診ている方に対して、効果が認められている抗てんかん薬、抗血小板剤、血管拡張薬、抗凝固剤などの薬剤を、一人一人の患者さんの症状や病態に応じて個別に対応して処方しています。成人では脳出血のリスクがあるため、抗血小板剤、血管拡張薬、抗凝固剤の投与に関しては特に慎重に検討しています。また、抗てんかん薬にも副作用がありますので、適宜、投与量や投与期間について個々に対応しています。

外科的治療

対象は虚血発症型の小児、成人です。出血発症では、バイパス手術による出血予防効果は証明されていませんが、初回出血後の後遺症が全く無い、或は軽度で、血流動態で脳虚血の程度が強い場合には、手術を行うこともあります。小児では手足の麻痺を生じる一過性脳虚血発作の停止目的での手術だけでなく、血流障害部位に応じて適切な範囲で手術を行うことが大切です。成長期に重要な知能低下の予防には前頭葉への対処が必要だからです。前頭葉に脳血流障害を認めた場合には、前頭葉も含めた範囲で手術を行うことで、脳血流動態の改善による発作の消失、脳梗塞予防効果だけでなく、長期的な知能予後においても良好な結果が得られています。



手術方法

もやもや病の手術方法は、歴史的な変遷を繰り返して様々な手技が個々の施設で行われています。根本的な考え方は、手足の麻痺につながる中大脳動脈領域の血流動態改善が第一目的で、小児ではさらに前頭葉の血流動態改善という目的が加わります。頭皮内を走行している浅側頭動脈を頭蓋内の脳表血管に吻合する直接血行再建術(バイパス手術)と、血管が豊富な側頭筋や硬膜、帽状腱膜などを脳表に移動する間接血行再建術があります。間接血行再建術は、脳表に移動された組織から血管新生がおこり、血液が頭蓋外から脳に流入するという、この疾患特有の現象を利用した方法です。両者の違いは、直接バイパス手術では血流改善効果が吻合直後から得られるのに対して、間接的手術では血管新生までに3週間から1ヶ月という時間的な差です。従って、新生血管形成能が小児ほど確実でないと推測されている成人や、小児でも重症例で血流増加を急ぐ場合には直接バイパス手術が必要です。前頭葉に対して、浅側頭動脈の前頭枝を用いて2つ目の直接血管吻合を行う方法もありますが、知能予後の考慮という目的からは、血流改善に即効性は求めないと考えて、当科では前頭葉に対しては間接的手術を行い、手術時間を短縮して手術侵襲を低くしています。また、退院後の早期社会復帰、小児では成長期での心理的影響を考慮して、男女ともに、ほぼ無剃毛での手術を行っております。

手術後の経過

術後約2週間で自宅退院となります。術後の血管吻合の状況はMRAで確認出来ます。また新生血管の形成も、術後1〜2ヶ月位にはMRAで確認できる様になります。脳血流の改善状況も脳血流検査(SPECT)で確認出来ます。脳血流動態が改善されると「もやもや血管」が消退していくのがMRAでもわかります。術後合併症として、一過性脳虚血発作、脳梗塞、痙攣、脳出血などが有ります。当科では2004年以降、51人、64回のバイパス手術が施行されました。手術のストレスが原因の一つと考えられる、術後入院期間中の脳卒中の発生状況は、脳内出血が3人、脳梗塞が1人にみられました。出血の方2名は予後が悪化しています。他の2名に変化はありません。直接の予後不良因子にはなりませんが、術後約1週間の間には、一過性脳虚血発作の頻度が一時的に増える方や、痙攣を起こす方もいます。発作は1週間過ぎ頃から減少して退院時には消失しています。痙攣は入院中1~2回で、脳梗塞が既にあった方に多い傾向にあります。このため予防的に抗けいれん薬を術前内服しておく場合もあります。

退院後の経過では、一過性脳虚血発作の症状は全例で消失しています。頭痛もこの疾患の虚血症状である場合があります。術前に強い頭痛発作を訴えていた方が、術後に頭痛が消失したという方も少なくありません。また、脳梗塞に関しては、脳梗塞の新たな発症はなく、再発もありません。再出血は初回から2年前後に最も多いといわれていますが、手術した方、病態検討後に手術無しで外来通院中の方、両者ともに現時点では再発はありません。脳血流動態が改善されれば、日常生活は障害なく普通におくることが出来ます。学校生活、職業に制限はありません。女性に多い病気ですが、妊娠に関しても、脳神経外科と産科が共同で管理を行うことで、安全に行われています。

当科では、診断、病態検査、治療方針の検討、手術の場合には術式の選択、投薬治療の場合には処方内容の検討、など、患者さん一人一人の病態に最も適した方針を選択できる様に、必要かつ最低限の検査と出来るだけ低侵襲な手術方法で治療効果があげられる様に努めております。また、脳ドックの普及により、偶然病気が見つかる方も増えています。無症状の方でも外来で一通りの検査を施行して病態評価を行った上で治療方針を決めています。



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急性虚血性脳血管障害

頭蓋内動脈狭窄について

脳の血管の動脈硬化が生じ血管狭窄を来す事によって、脳への血流が悪くなり脳梗塞を起こしやすい状態になります。脳梗塞の原因精査によって、頭部MRAなどで診断されることが多い疾患です。また最近では、全く無症状のまま、脳ドック等の検査によって発見される症例も増えています。 これらの原因は生活習慣病からくる動脈硬化が原因である事がほとんですが、稀に、徐々に進行していく原因不明の病態によって、中大脳動脈等が狭小化することもあります。これらの多くは無症候ですが、頻回に一時的な脳梗塞を繰り返す事も有ります。

治療方法はまず内科的な治療が先行します。その後、脳血流の測定等を行って、脳内の血流の予備能力を測定します。これらの検査の結果によってはバイパス術等の手術が勧められる場合も有ります。その他の方法としては、脳血管内治療による血管形成術という方法もあります。 当科では様々な検査を駆使して、内科治療を含め患者さんに最良な 治療方法を推奨するように努めています。

代表的疾患

脳動脈瘤、脳動静脈奇形、脳動静脈ろう、内頸動脈狭窄症、急性虚血性脳血管障害、もやもや病など

手術統計(2012〜2014年)

2012 2013 2014
脳動脈瘤 コイル塞栓術 未破裂 98 131 146
破裂 14 15 9
再治療など 16 10 12
合計 128 156 167
開頭クリッピング術 未破裂 18 30 32
破裂 10 2 6
合計 28 32 38
脳動脈瘤合計 156 188 205
頸動脈狭窄症 ステント留置術   21 18 19
内膜剥離術   2 3 5
動静脈奇形 13 6 6
硬膜動静脈瘻 15 23 18
その他(Endovascular surgery)   12 23 17
脳虚血 バイパス術 18
脳出血 開頭血腫除去術など 6
その他(Open surgery) 5
合計 219 261 299


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