東京慈恵会医科大学附属病院 脳神経外科Department of Neurosurgery Jikei University School of Medicine

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nougeka@jikei.ac.jp

機能外科

てんかんの治療には、科の領域を超えた様々な診断技術や知識が必要となります。
現在当院ではてんかん専門外来を小児科・精神科・脳外科・神経内科の4科それぞれで開設しており、
必要に応じて複数科が同時に並診も行なえるシステムとしています。

この4科合同の診療体制でより広い疾患・年齢の患者様に対応が可能となるだけでなく、
さまざまな状況に対して生活の質を上げる全人的な治療の選択が行えるものと考えています。

各科とも難治性てんかんに関しては力を入れており、薬剤治療に難渋するケースのご相談をお受けしています。
短期の精密検査入院で脳波検査を中心とした綿密な評価を行い、
4科合同のカンファレンスでてんかん外科の適応などの治療方針を協議しております。

てんかん

てんかんは他の脳外科疾患に比べて発生頻度が高く、小児期の有病率は人口1000に対し8〜10ともいわれています。これは、自分の同級生の中に1人ないしは2人はてんかん治療を受けていた計算になり、極めて身近な疾患といえます。てんかんに対する治療の中心は薬物療法ですが、さまざまな理由により薬物療法に抵抗性のてんかん、いわゆる難治性てんかんが2割程度存在すると考えられています。ここでは、腫瘍、血管障害、外傷等の器質的疾患を伴う症候性てんかんを除く、難治性てんかんの外科治療に関して述べます。

難治性てんかんの原因疾患、発症時期

難治性てんかんの重要な原因疾患として、海馬硬化症、乳幼児期の脳炎、皮質形成異常等の脳奇形や結節性硬化症、スタッジ-ウエーバー症候群等が挙げられます。

難治性てんかんの基礎疾患(MRIで確認できるてんかんの原因)

・脳腫瘍
・脳血管奇形 (脳動静脈奇形、脳海綿状血管腫)
・脳瘢痕化病変(外傷後瘢痕、脳炎後瘢痕)
・海馬硬化症 (側頭葉内側構造の変性)
・脳先天奇形の一部(結節性硬化症、裂脳症・滑脳症、半側巨脳症などを含む)

⇔MRIで確認できないてんかん原性病変が約5割

実際の手術件数は半数以上が側頭葉てんかんに対する切除術である

この中の海馬硬化症に関して少し細かく説明します。海馬とは側頭葉の内側に位置する神経核で、記憶の入り口となる部分ですが、ここが萎縮し変性を起こした状態を海馬硬化症と呼びます。海馬硬化症では記銘力の低下以外に『側頭葉てんかん(側頭葉性複雑部分発作:動悸や胃部不快感等の前兆から意識が遠のく発作で、周囲の人には、急に応対しなくなり、一点を凝視したまま動作が止まったようにしかみえない。物を食べている様な口の動きや無意味な手の動き(口部・手部自動症)を伴う事も多い。)』を引き起こす事が知られています。また周産期異常(難産、新生児仮死)や乳幼児期の脳炎が海馬硬化症の原因となる事もあり、比較的頻度の高い疾患です。

海馬硬化症の頭部MRI(冠状断:顔面と平行に撮影)



一般的にてんかん原性(てんかんの起りやすさ)が強い程、発症年齢が低いといわれており、重症例では生命予後的な観点から早期の対応を迫られる事があります。WEST症候群などのてんかん重症例や皮質形成異常、結節性硬化症等では乳児期発症が多く、側頭葉てんかんの多くは思春期を中心とした学童期に発症します。逆に20歳以降に初発てんかんがみられた場合は、前述した腫瘍、血管障害、外傷等が原因になっている事が稀ならずあり、これらを前提とした精査(頭部CTやMRI)が優先されます。

難治性てんかんの手術までの診断ステップ

難治性てんかん全てに外科治療が有効なわけではなく、治療方針の決定のためには以下のような検討が必要となります。難治性てんかんが実際に外科治療となるまでには、3段階のステップをたどる事になります。これは、確実なてんかん焦点同定を行ない、手術適応の判定のためには必要な過程で、「石橋を叩いて渡る」ような診断ステップこそが治癒率の上昇に繋がります。

第1段階は、発作内容の解析、画像検査、脳波所見を三本柱とした非侵襲的検索です。基本的に外来で行える範囲のものですが、発作の解析が困難な場合には積極的に精密検査入院を行ない、ビデオによる発作記録や夜間の連続脳波記録(終夜脳波)により、より正確な状況を確認します。画像検査ではMRIが中心となります。海馬硬化症や皮質形成異常等はCTだけでは見逃される事も多く、脳波検査と伴にてんかん焦点同定のためには欠くべからずものです。この三本柱が一致した焦点を指し示してくれれば、第2段階をとばして第3段階の治癒的手術に移れますが、不一致の場合は、第2段階の侵襲的検査を行います。侵襲的検査とは、手術により頭蓋内に電極を留置し、これを用いてビデオと脳波の同時モニタリングを行い、発作焦点を確実に同定する方法です。

1、非侵襲的検査 :外来および精査入院
 a,発作内容の解析
 (発作聴取、ビデオ脳波同時記録)
 b,画像診断(CT、MRI、脳血流シンチグラム)
 c,脳波所見(睡眠脳波、蝶形骨誘導)
 d,神経心理学的検査(知能・記銘力検査)

2、侵襲的検査 :検査手術
  頭蓋内電極留置による長時間ビデオ脳波同時記録

3、治癒的手術(術中脳波ガイド下)

発作内容、画像診断、脳波所見が一致 ⇒1→3
発作内容、画像診断、脳波所見が不一致⇒1→2→3

検査手術(頭蓋内電極留置)



手術法

手術法は切除術と遮断術に大別されます。切除術とは、文字通りてんかん発作の焦点を取り除く方法で、側頭葉切除術や皮質焦点切除術、また広範な皮質形成異常やスタッジ-ウエーバー症候群に対する大脳半球切除術等が含まれます。遮断術とは、発作を小規模化するための方法で、脳梁離断術や軟膜下皮質多切術(MST)がこれにあたります。これらの手術法は、発作型や脳波所見により選択ないしは組み合わせて用いられます。側頭葉てんかんに対する側頭葉切除術や、転倒発作や全身けいれんへの移行が著しい場合に対する脳梁離断術は、高い治療成績が期待できます。



迷走神経刺激術

薬物療法と開頭術の中間的な治療として迷走神経刺激術があります。これは近年開発された治療法で、基本的には開頭でのてんかん外科治療が適応ではない難治性てんかん、あるいは開頭術後の残存発作に対して行われます。開頭術に先立って行われない理由として、“約半数の患者さんに効果がみられ、発作頻度が半減する”といった治療効果が限定される点にあります。この点でこの治療もてんかん緩和治療に当たります。ただし、手術内容は比較的低侵襲であり、下図のように頚部の迷走神経にコードを巻きつけ、これと胸部のペースメーカーに似た小判型の装置をつなげれば終了できるので、開頭術を要さず3〜4日の短期入院ですむという大きなメリットがあります。当院でも2015年より迷走神経刺激術が可能となっております。



難治性てんかんの手術適応

難治性てんかんに対する外科治療を行う上で、最も重要な事は手術適応にある様に思われます。以前は、「てんかん外科も機能外科の一分野なのであるから、患者自身が意志決定を行えない小児例や、精神発達遅延を来した例では待機ないしは適応は無い。」といわれてきました。しかし、重症例では生命予後にまで関わり、逆に早期治療は成長発達の一助となる可能性があります。また、転倒発作(棒を倒す様に勢いよく倒れ、頭部・顔面の外傷を伴い易い)を持つ患児の親御さんは、安全性を確保するため患児から一時も離れられず、「家族全体の生活の質」が発作のために損なわれているといっても過言ではありません。

成人では、事故(交通事故、転落事故、熱傷、溺水)につながる事の多い側頭葉てんかん、てんかん重積への移行がみられた症例等では充分な適応があると考えられますし、社会生活上の問題を来す場合(就職、進学、失業、結婚、妊娠、杭けいれん薬による過度の眠気)も積極的な検討が必要と思われます。

a,社会生活上問題を来たす場合
(就職・進学・失業、妊娠、薬物治療の過度の眠気)
b,身体への危険度が高い発作
(てんかん重積歴、事故歴のある側頭葉てんかん)
c,てんかん発作により成長発達遅延が出現

 適切な抗てんかん薬での治療が試みられている事
 精神的・肉体的に手術に耐えうる事 が前提
         ↓
 発作頻度・知能低下・年齢は条件でない

当院でのてんかん外科治療

当院では、年間約50例のてんかん精査入院を行なっております。精査入院で得られた情報は、当科での検討会だけではなく、てんかん疾患関連科間(精神科、神経内科、小児科および当科)の検討会で協議され、この結果で手術適応、手術法が決定されます。成人では側頭葉性複雑部分発作(側頭葉てんかん)を中心に、前頭葉性複雑部分発作症例に対して治療を行ない、小児では前述した脳梁離断適応例等に積極的な外科治療を行なっております。現在までのところ、治療効果は安定しており、発作悪化ないしは不変例はありません。

御自宅での留意点

てんかん発作時は、ベッド転落や嘔吐による誤嚥等の危険をさける事と、発作型確認のための観察を行う事が重要です。一旦発作が落ち着くまでは、患者さんのそばをを離れない様にして下さい。(病院への連絡や、救急車の手配はその後で充分です。)

発作の観察では発作の移り変わりに注意して下さい。特に発作のはじまりが、焦点同定のためには大切な情報となります。

発作型や発作頻度にあわせた安静度(自由度)を考える事も重要です。例えば、転倒発作ではヘッドギアの装着が必要となりますし、側頭葉性複雑部分発作が頻発する場合では溺水予防のため水泳禁止とし、タバコによる熱傷、転落事故に注意が必要です。

基本的に発作が落ち着くまでは車やバイクの運転は禁止です(最終の発作から2年間は運転できません。その後の運転免許の更新や取得に関しては、主治医と相談して下さい。)

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三叉神経痛・顔面痙攣

これらに対しては、診察や画像解析をもとに、原因の検索と治療にあたっています。 治療としては内服治療や、ボトックス注射に加えて手術治療による集学的治療を行っています。難治性の場合に、それぞれの神経に蛇行した血管が触れている事で起こることがあります。その接触を解除するのが、微小血管減圧術です。以前より行われていた手術法ではありますが、当施設ではナビゲーション、神経モニタリングを用いてより安全に手術を遂行できるように努めております。

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髄腔内バクロフェン注入法

有害な痙縮に対する治療として、理学療法・内服治療・腱移行術などの整形外科的治療、選択的脊髄後根遮断術や末梢神経縮小術などが脳神経外科領域の治療として選択されてきました。それらに加え、バクロフェン髄腔内持続投与(intrathecal baclofen ; ITB)療法が2006年に保険適応となり、治療が進められています。

体内植え込み型ポンプを用いて薬剤を供給する治療法であり、適応としては「脳脊髄疾患に由来する重度の痙性麻痺(既存治療で効果不十分な場合)」とされており、原疾患は問わず治療され、高い効果を得られることから注目されている治療です。当院では、脳卒中後遺症として起こることの多い痙縮を脳卒中治療の一環として積極的に取り組んでおります。

リハビリテーション科と連携し、適応を判断する前観察期、治療効果判断となるスクリーニング期、手術前後の周術期、術後の評価やリハビリと薬液補充のフォローアップ期のそれぞれにおいて綿密な評価と効果的なリハビリテーションが可能となっております。これらの機能的脳神経外科領域の治療経験を活かして、他の分野において手術支援としてのモニタリングやナビゲーションを施行しております。



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