東京慈恵会医科大学附属病院 脳神経外科Department of Neurosurgery Jikei University School of Medicine

〒105-8471
東京都港区西新橋3-19-18
TEL:03-3433-1111
FAX:03-3459-6412
nougeka@jikei.ac.jp

神経外傷・スポーツ頭部外傷

「今日も明日も脳振盪」「魔法のやかんと命の水」。青春時代を謳歌し、声高らかに叫んだこれらの言葉は、
「スポーツにおける頭部外傷」の世界においては既に死語となりました。
スポーツ科学の発展に伴い、スポーツ選手の健康を守るため脳振盪をはじめとする神経外傷に対し新たな提言がなされており、
当院はスポーツ現場で頭部外傷が起きた場合の初期対応のバックアップ病院となっております。
また、我々は各種スポーツ団体などにスポーツにおける頭部外傷特に脳振盪などの重要さを広く知ってもらうための啓発活動を続けており、
日本臨床スポーツ医学会脳神経外科部会の主たる組織としても活動を行っております。
さらに最近では学校保健現場での事故予防や日本体育協会との研究プロジェクトなどにも参加しております。

2017年 第28回 日本臨床スポーツ医学会学術集会開催 http://www.rinspo.jp/outline.html

主に関連するスポーツ団体

日本ボクシングコミッション、日本サッカー協会、日本テニス協会、少林寺拳法連盟
日本ラグビーフットボール協会、日本アマチュアボクシング連盟、法政大学アメリカンフットボール部

頭部外傷は赤ちゃんから老人まで、スポーツのみならず転落事故や交通事故など、様々な年齢、様々なシチュエーションにおいて発生します。そしてその程度は軽微なたんこぶから生命の危険を伴うものまで様々であり、緊急の対応が必要なこともあります。当院では脳神経外科外来や救急外来において、神経学的所見や頭部CT検査などから神経外傷の程度を判断し、必要に応じて入院・外科的治療を行っています。

重篤なスポーツ頭部外傷を未然に防ぐための取り組み

脳振盪のメカニズム解明のための頭部MRI健診、スポーツを行う上での万全な体調管理のための健康診断の実施を行なっています。法政大学アメリカンフットボール部 “オレンジ“との共同研究により、オフシーズンには健康診断および、頭部MRIの精査を行なっています。このような取り組みによって重篤な頭部外傷や頚椎外傷を未然に予防し、学生アメリカンフットボールの競技安全性の向上することを目的としています。




代表的な神経外傷には、急性硬膜下血腫、急性硬膜外血腫、脳振盪、脳挫傷・脳内血腫、びまん性軸索損傷、慢性硬膜下血腫、頭蓋骨骨折などが挙げられ、何よりも生命を保ち無事に社会復帰できるように、それぞれの疾患に対して適切な治療を行っています。



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脳振盪

スポーツにおいて頭部外傷は最悪のアクシデントです。その頭部外傷のなかで、頭皮や頭蓋骨などの損傷を除いた脳そのものの損傷、特に急性硬膜下血腫と脳振盪という怪我について、その現状、病態、対応、予防対策などを紹介します。

スポーツにおける頭部外傷(脳損傷)の発生状況

・スポーツ別の発生頻度
中等度から重症頭部外傷の原因スポーツとして、ラグビー、アメリカンフットボール、柔道、体操、サッカーなどの他にハイスピードで衝突があり得る野球、バスケットボールなどが挙げられていますが、スノーボード、スキーなどのウンタースポーツなどでも多く発生しているようです。

・発生脳損傷
上記のスポーツで起きる脳損傷のうち1/3は脳振盪で、引き続き、急性硬膜下血腫、急性硬膜外血腫、脳挫傷、慢性硬膜下血腫などの怪我が起きています。

スポーツに関連したおもな脳損傷

スポーツ固有の脳損傷として重要なものは、急性硬膜下血腫と脳振盪の二つです。これらの発生機序は類似しており、決して硬い対象物に激突するなどの事象ではなく、むしろ、急激な頭部のゆすれで生じるものです。

・急性硬膜下血腫
頭部への急激な加速が加わった際に頭蓋骨と脳組織の移動の差が生じる事から、頭蓋骨内面にある静脈洞と脳表の間にある静脈(架橋静脈)が破綻をきたして出血し急性硬膜下血腫が発生します。血腫が時間と共に多くなれば、静脈破綻による静脈環流障害に基づく脳組織の腫脹とあいまって頭の中がパンパンになり、頭痛、嘔吐、そして、意識障害へと進行し、死に至ることも稀ではありません。
診断はCT scanで比較的容易にされますので、受傷後に頭痛などが生じた場合には病院を受診する事が肝要です。



・脳振盪
頭部が比較的急激に揺すられるような外力で脳内の深部組織に物理的ストレスがかかり脳の機能障害を起こす状態であり、特に神経細胞からの軸索(ケーブル)が「一時的なねじれ」により機能的障害を起こし、脳の停電を来たしたような状態です。脳組織の損傷はなく、可逆的変化と考えられています。



臨床症状は、必ずしも意識消失を含む必要はなく、以下のような症状のうちどれかがあれば疑うべきです。
・意識消失、健忘、錯乱、見当識障害などの認知機能障害
・平衡感覚障害(ふらふらしているなど)
・頭痛、悪心、めまい、耳鳴り、複視などの自覚症状
・睡眠障害、易刺激性、疲労感、鬱状態、情緒不安定、集中力低下などの症状
これら臨床症状は一般に5-10日くらいで軽快する場合が多く、バランステストや神経心理学的検査など種々の客観的検査でも確認出来ます。スポーツの現場での客観的評価として、SCAT3 (Sports concussion assessment tool 2)というツールが薦められており、スポーツ現場においてはよりハンディーなPocket SCATを使用することが望ましいと考えられ、日本臨床スポーツ医学会としても和訳を公開しています。

これらのより脳振盪の点数化が可能となっていますが、その重症度は意識消失や健忘などの存在と言う重症感に合致する症状よりも、むしろ、頭痛などの不思議な自覚症状の継続期間をもって計る方が望ましいと考えられています。

脳振盪の後遺症

・脳振盪からの回復
脳振盪の症状は、一般的に頭痛やめまいが後々まで残りやすいが数日から10日あまりの期間で回復する場合がおおく、さきにあげた臨床症状を後遺することはないと従来考えられていました(可逆的変化)。

・脳振盪後症候群
しかし、一部の患者はいつまでたっても頭痛やめまい、物忘れ、易怒性、不眠などを継続している場合があり、受傷後3ヶ月を経てもこれらの症状をもっている場合には、脳振盪後症候群と呼ばれています。

・慢性脳損傷
脳振盪はひとたび起こすと再度の脳振盪を起こしやすくなると言われています(6倍程度)。このような状況から脳振盪を繰り返す事により、先の脳振盪後症候群の症状を慢性的・半永続的にもってしまったり、認知症、パーキンソン病などの症状が出現してしまった状態を慢性脳損傷と呼びます。つまり、脳振盪と言う機能障害には脳への障害の蓄積があるではと思われています。これはパンチドランカーなどと称され一般に知られていますが、ボクシング以外でもアメリカンフットボール、サッカー、ジョッキーなどの種々のスポーツの引退選手で報告されてきています。ボクシングでは、引退年齢が高く、総試合数が多く、ノックアウト負けの回数が多いボクサーに起こりやすいといわれ、アメリカンフットボールでも、3回以上脳振盪を経験した選手では、明らかにアルツハイマー型認知症が多いと報告されています。
このように慢性脳損傷はスポーツ選手のその後の社会活動に大きな影響を及ぼすものであり、近年世界的にも大きな問題となっています。

頭部外傷の際の対応

・現場での対応
スポーツ競技の現場で選手などが衝突などで倒れた場合には、即座に現場に赴くべきです。 その場では、呼吸や脈などの確認後、意識の状況、健忘や意識状態が正常であるかどうかを確認し、頭部外傷や脳振盪の疑いが少しでもあれば、即座にサイドラインへ運び出すべきです。この際には、同時に起こりえる頸椎損傷に備えて首の保護は大切ですが、特殊なストレッチャーなどの準備を待つ必要はなく、早急に運び出す事が優先されるべきです。
サイドラインでは、頭痛や吐き気など外傷性の頭蓋内出血の兆候があるか頻回にチェックすべきです。同時に、脳振盪の診断ツールなどで少しでも脳振盪が疑われたら、当日から24時間以内は休息をとるように指示した方が安全です。
頭痛などが軽快した場合は帰宅を許可しますが、24時間は単独での生活は避け、頭痛などが出現・悪化したらすぐに病院を受診するように指導すべきです。

・脳振盪に対する対応
脳振盪を被ったと診断された場合には、先ずは24時間の休息をすべきです。
その後は、症状が消失したのを確認して、運動強度を徐々に上げていき、現場へ復帰する段階的復帰のプロトコールを実施します。
競技復帰後も衝突などの際に容易に脳振盪関連症状を生じる場合などは、脳振盪後症候群や慢性脳損傷の移行の恐れがあるため、専門家への受診を薦めましょう。

段階的復帰のプロトコール

・運動中止と休息、症状がなければ次のステップ
・歩行やサイクリングなどの軽度の有酸素的運動
・スポーツに特化した運動。徐々に、抵抗性トレーニングの開始
・非・コンタクトトレーニング
・メディカルチェック後のフル・コンタクトトレーニング
・試合参加

脳振盪の予防

・外力に対して脳自体を強化する事は不可能ですが、頭部を支える頸部筋群の強化は意味があるかと思われます。しかし、基本的に衝突などは多くの場合意図的なものではないので、頭部への加速度を避ける事は難しいのが現実です。
ヘッドギアなどは、頭部の組織(頭皮や頭蓋骨)などに対する保護作用は有するものの、脳組織への加速度を減少せしめる作用はないばかりか、むしろ、同じ衝撃でも加速度が増加する可能性があるので、脳保護作用はないと思った方がいいです。また、ヘッドギアを装着する事により、プレーそのものが荒くなり外傷の機会を増やす可能性が危惧されています。
・マウスピースには脳保護作用(頭部への緩衝作用)はないものと考えられています。
・現実的な対応策として、スポーツ現場での事故状況を把握する事で、各スポーツでのルールや練習方法を改善する事により脳振盪ひいては急性硬膜下血腫の発生を予防する事が望まれます。

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急性硬膜下血腫

病因・病態

脳の表面に出血が発生したため、頭蓋骨のすぐ内側にあって脳を覆っている「硬膜」との間に血液が溜まり、ゼリー状に固まった状態を「急性硬膜下血腫」(きゅうせいこうまくかけっしゅ)と呼びます。多くの場合、大脳の表面に発生しますが、左右の大脳半球の間にある小脳表面に発生することもあります。急性硬膜下血腫のほとんどは、頭部外傷によって発生します。頭部外傷によって脳の表面が損傷し、その部分の血管が破綻して出血、硬膜下に溜まるものです。また、脳自体にはあまり損傷がないものの、血管自体が損傷したことによる出血の場合もあります。例えば、高齢者の日常生活における転倒によるものです。若年層では、スポーツ時の頭部外傷が原因となることがあります。

症状

強い頭部外傷がきっかけである場合、脳の損傷が大きく、受傷直後から意識障害が起きます。脳の損傷はなく、血管の損傷が原因の場合、受傷当初には発生しなかった意識障害が、血腫の増大によって徐々に発現してくることがあります。

診断・検査

通常CTを使用して診断を行います。出血は硬膜と脳の間の空間に拡がるため、短時間で大脳半球を覆う血腫となります。

手術・治療

急性硬膜下血腫が認められた場合、通常は緊急手術を行います。意識障害が軽微で、周囲の細胞への圧迫度合いが見られない場合は、厳重な経過観察を行うことがあります。血腫を完全に除去し、出血源を確認して止血するためには、開頭手術による血腫除去術が確実です。しかし、時間的に間に合いそうもない時、患者さんの容態が非常に重篤で開頭手術に耐えられないそうにない場合は、尖頭や小開頭によって血腫洗浄する方法を行います。脳のむくみが重度な場合は、術後に低体温療法、バルビツレート療法が行われます。

予後

頭部外傷の場合、頭蓋内のあちこちに損傷を受けていることも多いため、術後に新たな血腫が出現、増大することもあります。また、いったん生じた脳の損傷は、脳の腫れ(脳浮腫)や出血などの新たな損傷(二次性脳損傷)へと進展していくため、CTによる厳重な観察を行います。しかし、脳損傷からの回復はきわめて難しく、死亡率は60%以上となっています。

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急性硬膜外血腫

病因・病態

硬膜の血管が損傷され、頭蓋骨と硬膜の間に出血した病態です。10-30歳の若年者に多く発生します。発生部位は、中硬膜動脈が走る側頭部、側頭・頭頂部が最も多く、発症例の半数以上を占めます。原因は、主に転落・転倒、交通外傷であり、多くは頭蓋骨々折を伴っています。

症状

血腫による脳の圧迫により、頭蓋内圧亢進による、頭痛、嘔吐などの症状が表れます。さらに、血腫が増大すると意識障害に至ります。

診断・検査

CT、MRI、頭蓋単純X線撮影などにより診断を行います。

手術・治療

非常に重症で回復が望めない場合は、積極的治療の適応対象外となります。脳損傷を伴わない、または軽度の脳損傷の場合の硬膜外血腫の場合は、血腫の量が少なければ、安静を保ち、薬物療法を用いる保存的治療と経過観察を行います。血腫の量が中程度〜多量の場合には、全身麻酔下での開頭手術により血腫の除去を行います。

予後

脳損傷が軽度である場合には、早期に開頭血腫除去術を施行すれば回復が期待できます。

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びまん性軸索損傷

病因・病態

強い外力で脳に回転力が生じた場合、脳深部は脳表部よりも遅れて回転します。このため脳がねじれるように動いて軸索(細胞より延びていると突起部分で、神経細胞において信号の出力を担うもの。「神経線維」とも呼ばれる)が強く引っ張られ、損傷します。これが、「びまん性軸索損傷」(びまんせいじくさくそんしょう)です。交通事故などで頭部に強い外力が加わり、意識障害を呈しているにもかかわらず、頭部CT、MRIで明らかな血腫、脳挫傷を認めない病態です。脳表面の広範囲にわたって挫傷が発生しているものと考えられます。

症状

受傷直後から、高度の意識障害が発生します。

診断・検査

MRIで検査を行います。CTでは抽出が困難です。知能や記憶に関する調査も併せて行うことがあります。

手術・治療

明確な所見がないため、手術を行うことによる治療はできません。

予後

死亡率は60%とされ、転帰は不良です。回復しても、後遺症として麻痺や記銘力の低下などが見られます。

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脳挫傷・脳内血腫

病因・病態

「脳挫傷」とは、頭を強打するなどして頭蓋骨内で脳が急激に動き、硬膜や頭蓋骨にぶつかって、脳内に損傷や出血が発生している病態です。前頭葉、側頭葉に多く発生します。また、脳挫傷に伴って出血した血が塊になったものを「脳内血腫」と呼びます。

症状

脳の腫れや出血がひどい場合には、頭蓋内圧亢進による激しい頭痛、めまい、嘔吐などの症状が出ます。脳内血腫ができる場合には受傷直後からこうした症状が出ますが、受傷後しばらくして血腫が増大するまでは症状が出ないこともあります。特に高齢者で受傷から症状出現までの時間に遅れがみられます。

診断・検査

通常は、CTで検査を行います。出血部分は白く映り(高吸収域)、脳浮腫部分は、やや黒く映ります。(低吸収域)白と黒の部分が混在した状態のため、黒コショウ様、または霜降り様と呼ばれる所見を呈します。小さい血腫は発見されにくいこともあるため、MRIを使用する場合もあります。

手術・治療

血腫を伴わない場合は、頭蓋内圧亢進に対する脳圧降下薬(グリセオールやマンニトール)の点滴注射を行います。手術をして脳挫傷・脳内血腫を除去する場合もあります。

予後

予後は、入院時点での意識障害の程度によって異なり、昏睡状態の重症脳挫傷(脳内血腫の合併を含む)の場合の死亡率は44%、社会復帰は31%とされています。治癒しても麻痺などの後遺症が残ることがあります。

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慢性硬膜下血腫

病因・病態

軽度の頭部外傷後から1〜2ヶ月後に、硬膜と脳の間に血液が貯留する病態です。高齢者に多く、外傷がなくても発症する場合があります。その原因としては、アルコール多飲、脳圧の低下、感染、動脈硬化、貧血などが考えられています。実際のところ、明確な病因はわかっていません。

症状

血腫が増大するにつれ、意識障害、知能障害、頭痛、嘔吐、麻痺などの症状が出現します。

診断・検査

CT、MRI検査によって診断を行います。

手術・治療

血腫を放置すると重篤な後遺症が残ると考えられる場合には、手術によって血腫を除去します。通常は、尖頭血腫洗浄除去術を行います。これは、局部麻酔下で、頭蓋骨に5cm程度の頭皮切開を行ったのち、1.5cm程度の穴を一つ、または複数開けて、血腫を除去し、生理食塩水にて洗浄を行うものです。尖頭血腫洗浄除去術では血腫が完全に除去できない場合には、全身麻酔下の開頭手術によって行う、開頭血腫除去術を行う場合もあります。

予後

血腫が除去できれば完治します。

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