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各疾患について
 
神経外傷
「今日も明日も脳震盪」「魔法のやかんと命の水」。青春時代を謳歌し、声高らかに叫んだこれらの言葉は、「スポーツにおける頭部外傷」の世界においては既に死語となりました。スポーツ科学の発展に伴い、スポーツ選手の健康を守るため脳震盪をはじめとする神経外傷に対し新たな提言がなされており、当院はスポーツ現場で頭部外傷が起きた場合の初期対応のバックアップ病院となっております。
また、我々は各種スポーツ団体などにスポーツにおける頭部外傷特に脳震盪などの重要さを広く知ってもらうための啓発活動を続けており、日本臨床スポーツ医学会脳神経外科部会の主たる組織としても活動を行っております。さらに最近では学校保健現場での事故予防や日本体育協会との研究プロジェクトなどにも参加しております。

主に関連するツポーツ団体は
日本ボクシングコミッション
日本サッカー協会
日本テニス協会
少林寺拳法連盟
そのほか、日本ラグビーフットボール協会日本アマチュアボクシング連盟などとも交流を持っております。

 一方、頭部外傷は赤ちゃんから老人まで、スポーツのみならず転落事故や交通事故など、様々な年齢、様々なシチュエーションにおいて発生します。そしてその程度は軽微なたんこぶから生命の危険を伴うものまで様々であり、緊急の対応が必要なこともあります。
当院では脳神経外科外来や救急外来において、神経学的所見や頭部CT検査などから神経外傷の程度を判断し、必要に応じて入院・外科的治療を行っています。

 代表的な神経外傷には、急性硬膜下血腫急性硬膜外血腫脳しんとう脳挫傷、脳内血腫びまん性軸索損傷慢性硬膜下血腫、頭蓋骨骨折などが挙げられ、何よりも生命を保ち無事に社会復帰できるように、それぞれの疾患に対して適切な治療を行っています。
主な神経外傷
 
急性硬膜下血腫
■病因・病態

脳の表面に出血が発生したため、頭蓋骨のすぐ内側にあって脳を覆っている「硬膜」との間に血液が溜まり、ゼリー状に固まった状態を「急性硬膜下血腫」(きゅうせいこうまくかけっしゅ)と呼びます。多くの場合、大脳の表面に発生しますが、左右の大脳半球の間にある小脳表面に発生することもあります。

急性硬膜下血腫のほとんどは、頭部外傷によって発生します。頭部外傷によって脳の表面が損傷し、その部分の血管が破綻して出血、硬膜下に溜まるものです。
また、脳自体にはあまり損傷がないものの、血管自体が損傷したことによる出血の場合もあります。例えば、高齢者の日常生活における転倒によるものです。若年層では、スポーツ時の頭部外傷が原因となることがあります。

■症状
強い頭部外傷がきっかけである場合、脳の損傷が大きく、受傷直後から意識障害が起きます。脳の損傷はなく、血管の損傷が原因の場合、受傷当初には発生しなかった意識障害が、血腫の増大によって徐々に発現してくることがあります。
■診断・検査
通常CTを使用して診断を行います。出血は硬膜と脳の間の空間に拡がるため、短時間で大脳半球を覆う血腫となります。
■手術・治療

急性硬膜下血腫が認められた場合、通常は緊急手術を行います。意識障害が軽微で、周囲の細胞への圧迫度合いが見られない場合は、厳重な経過観察を行うことがあります。

血腫を完全に除去し、出血源を確認して止血するためには、開頭手術による血腫除去術が確実です。しかし、時間的に間に合いそうもない時、患者さんの容態が非常に重篤で開頭手術に耐えられないそうにない場合は、尖頭や小開頭によって血腫洗浄する方法を行います。脳のむくみが重度な場合は、術後に低体温療法、バルビツレート療法が行われます。

■予後
頭部外傷の場合、頭蓋内のあちこちに損傷を受けていることも多いため、術後に新たな血腫が出現、増大することもあります。また、いったん生じた脳の損傷は、脳の腫れ(脳浮腫)や出血などの新たな損傷(二次性脳損傷)へと進展していくため、CTによる厳重な観察を行います。
しかし、脳損傷からの回復はきわめて難しく、死亡率は60%以上となっています。
急性硬膜外血腫
■病因・病態
硬膜の血管が損傷され、頭蓋骨と硬膜の間に出血した病態です。10-30歳の若年者に多く発生します。発生部位は、中硬膜動脈が走る側頭部、側頭・頭頂部が最も多く、発症例の半数以上を占めます。原因は、主に転落・転倒、交通外傷であり、多くは頭蓋骨々折を伴っています。
■症状
血腫による脳の圧迫により、頭蓋内圧亢進による、頭痛、嘔吐などの症状が表れます。さらに、血腫が増大すると意識障害に至ります。
■診断・検査
CT、MRI、頭蓋単純X線撮影などにより診断を行います。
■手術・治療
非常に重症で回復が望めない場合は、積極的治療の適応対象外となります。
脳損傷を伴わない、または軽度の脳損傷の場合の硬膜外血腫の場合は、血腫の量が少なければ、安静を保ち、薬物療法を用いる保存的治療と経過観察を行います。
血腫の量が中程度〜多量の場合には、全身麻酔下での開頭手術により血腫の除去を行います。
■予後
脳損傷が軽度である場合には、早期に開頭血腫除去術を施行すれば回復が期待できます。
脳挫傷、脳内血腫
■病因・病態
「脳挫傷」とは、頭を強打するなどして頭蓋骨内で脳が急激に動き、硬膜や頭蓋骨にぶつかって、脳内に損傷や出血が発生している病態です。前頭葉、側頭葉に多く発生します。また、脳挫傷に伴って出血した血が塊になったものを「脳内血腫」と呼びます。
■症状
脳の腫れや出血がひどい場合には、頭蓋内圧亢進による激しい頭痛、めまい、嘔吐などの症状が出ます。脳内血腫ができる場合には受傷直後からこうした症状が出ますが、受傷後しばらくして血腫が増大するまでは症状が出ないこともあります。特に高齢者で受傷から症状出現までの時間に遅れがみられます。
■診断・検査
通常は、CTで検査を行います。出血部分は白く映り(高吸収域)、脳浮腫部分は、やや黒く映ります。(低吸収域)白と黒の部分が混在した状態のため、黒コショウ様、または霜降り様と呼ばれる所見を呈します。
小さい血腫は発見されにくいこともあるため、MRIを使用する場合もあります。
■手術・治療
血腫を伴わない場合は、頭蓋内圧亢進に対する脳圧降下薬(グリセオールやマンニトール)の点滴注射を行います。手術をして脳挫傷、脳内血腫を除去する場合もあります。
■予後
予後は、入院時点での意識障害の程度によって異なり、昏睡状態の重症脳挫傷(脳内血腫の合併を含む)の場合の死亡率は44%、社会復帰は31%とされています。治癒しても麻痺などの後遺症が残ることがあります。
脳しんとう
■病因・病態
頭部外傷後に一時的に意識を失った状態です。
一般的には後遺症なく回復します。
■症状
頭痛や、受傷前後の記憶がなくなる健忘症が見られます。
■診断・検査
なんらかの意識障害が発生したものの、頭部CTやMRIの検査によって、脳の中に異常を認めない場合、「脳しんとう」と診断されることになります。
■手術・治療
脳内に異常が認められない「脳しんとう」の場合、安静にして様子を見る処置を取ります。
■予後
検査の結果が、「異常所見なし」であれば問題なく回復します。ただし、「脳震盪後症候群」とよばれる後遺症があり、頭痛、めまい間、集中困難、健忘症、うつ病、感情鈍麻、不安などが起こることがあります。
びまん性軸索損傷
■病因・病態
強い外力で脳に回転力が生じた場合、脳深部は脳表部よりも遅れて回転します。このため脳がねじれるように動いて軸索(細胞より延びていると突起部分で、神経細胞において信号の出力を担うもの。「神経線維」とも呼ばれる)が強く引っ張られ、損傷します。これが、「びまん性軸索損傷」(びまんせいじくさくそんしょう)です。
交通事故などで頭部に強い外力が加わり、意識障害を呈しているにもかかわらず、頭部CT、MRIで明らかな血腫、脳挫傷を認めない病態です。脳表面の広範囲にわたって挫傷が発生しているものと考えられます。
■症状
受傷直後から、高度の意識障害が発生します。
■診断・検査
MRIで検査を行います。CTでは抽出が困難です。知能や記憶に関する調査も併せて行うことがあります。
■手術・治療
明確な所見がないため、手術を行うことによる治療はできません。
■予後
死亡率は60%とされ、転帰は不良です。
回復しても、後遺症として麻痺や記銘力の低下などが見られます。
慢性硬膜下血腫
■病因・病態
軽度の頭部外傷後から1〜2ヶ月後に、硬膜と脳の間に血液が貯留する病態です。高齢者に多く、外傷がなくても発症する場合があります。その原因としては、アルコール多飲、脳圧の低下、感染、動脈硬化、貧血などが考えられています。実際のところ、明確な病因はわかっていません。
■症状
血腫が増大するにつれ、意識障害、知能障害、頭痛、嘔吐、麻痺などの症状が出現します。
■診断・検査
CT、MRI検査によって診断を行います。
■手術・治療
血腫を放置すると重篤な後遺症が残ると考えられる場合には、手術によって血腫を除去します。通常は、尖頭血腫洗浄除去術を行います。これは、局部麻酔下で、頭蓋骨に5cm程度の頭皮切開を行ったのち、1.5cm程度の穴を一つ、または複数開けて、血腫を除去し、生理食塩水にて洗浄を行うものです。尖頭血腫洗浄除去術では血腫が完全に除去できない場合には、全身麻酔下の開頭手術によって行う、開頭血腫除去術を行う場合もあります。
■予後
血腫が除去できれば完治します。


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