東京慈恵会医科大学附属病院 脳神経外科Department of Neurosurgery Jikei University School of Medicine

〒105-8471
東京都港区西新橋3-19-18
TEL:03-3433-1111
FAX:03-3459-6412
nougeka@jikei.ac.jp

小児脳神経外科

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「我が子が病気を持って生まれてくる。我が子が病気になる。」ことをすぐに受け入れることができる親はこの世に存在しません。
それが何らかの障害を持つ可能性がある中枢神経系の病気である場合は尚更です。そんなご両親・ご家族の思いを受け止め、
こども達の成長と共に歩んで行くのが、我々小児脳神経外科であり総合母子健康医療センターです。
患児達には治療後の人生があり、彼らを囲むご家族の思いや関わりがあります。
そのため当部門では、小児科・産科婦人科・小児外科・形成外科・小児泌尿器科・整形外科などの関連各科、看護師や臨床心理士などの
コメディカルと共に総合的なチーム医療を行い、全人的医療を実践すべく責任を持って治療にあたっています。
大学病院としての当部門が扱う疾患は先天奇形や脳血管障害、脳腫瘍、水頭症、脊椎脊髄疾患、神経外傷、てんかんなど多岐に渡りますが、
当部門では小児脳神経外科医だけでなく、それぞれの専門分野の脳神経外科医が一堂に会し、
患児一人一人の病態を検討することによって様々な意見を出し合い、最適な治療法を選択できるようにしています。
そしてメスを入れる最初の治療の大切さを銘記し、世界における最先端の治療・研究を行うことを基本とし、
更に当部門から世界の常識となる治療を発信することを心がけています。
くわしくは総合母子健康医療センターホームページをご参照ください。

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小児脳腫瘍

小児脳腫瘍は,小児がんの中では、白血病につぐ小児期最多の固形腫瘍です。小児がん治療は、20世紀の医学の代表的なサクセス・ストーリーと言われ、治療の進歩によって小児がんによる死亡率は最近20年でも年々下がっています。しかし、今日もなお我が国の小児の疾病による死因の首位は小児がんであり、その克服は大きな課題です。そのような小児がん治療の中で、残された最大の課題とされるのが小児脳腫瘍です。

治療の進歩に関わらず、小児脳腫瘍は小児がんによる死亡の主因となっています。一方小児脳腫瘍では発症時から麻痺,失調,感覚障害などの神経症状のほかに,内分泌障害,高次脳機能障害などのさまざまな症状が見られ,小児がんによる合併症と後遺症の最大の原因となっています。脳腫瘍の子どもたちの生存率とQuality of Life(QOL,生活の質)の向上は世界の小児がんの残された最大の課題とされます。

こうした目標を達成する妨げとなっている小児脳腫瘍の特徴と問題点について延べ、問題を克服しながらふたつの目標を達成するためにどのように集学的治療が行われているのかをお示しいたします。私たちは、このような目標の達成のために、世界の水準をみたした治療をすすめてまいります。

白血病に比べ進歩はゆっくりでも,今日では多くの脳腫瘍の子どもたちが治癒するようになりました.治癒した後には,子どもたちには長い人生があります。合併症や後遺症の有無にかかわらず,診断時から治癒後まで,子どもたちと家族のあらゆる身体的問題、心理社会学的問題に対応し、子どもたちやご家族を支える長期的な診療(包括的診療)が,小児脳腫瘍ではとりわけ重要です。このような観点から私たちは、様々な専門家からなる多職種チームによる支援を続けてまいります。



小児脳腫瘍患者の主な合併症と後遺症

神経障害

脳神経障害(顔面神経麻痺、動眼神経麻痺など)
四肢の麻痺
感覚障害

内分泌障害

下垂体機能低下症
尿崩症
思春期早発症・思春期遅発症・思春期停止
成人期の成長ホルモン分泌不全

成長障害

成長ホルモン分泌不全
脊髄照射による脊椎骨成長障害
脊髄照射による側湾
放射線照射による頭蓋骨・顔面骨成長障害

発達障害

認知機能障害

言語障害

構音障害
構語障害
高次脳機能障害

社会化の問題

復学
就職

二次がん

中枢神経系腫瘍、中枢神経系以外の腫瘍

心的外傷(trauma)

ホロコースト(holocaust)症候群
疾患・治療による心的外傷



小児脳脊髄腫瘍の特徴

・たくさん種類があること(多様性)
日本で見られるおもな小児脳腫瘍には,脳腫瘍全国統計によれば星細胞腫(19%),髄芽腫(12%),胚細胞腫瘍(10%),頭蓋咽頭腫(9%),退形成性星細胞腫(6%),上衣腫(5%)の順になります。小児脳腫瘍は,これらの腫瘍を含め全部で100 種類以上の腫瘍があります。診断と治療の方法は,腫瘍の種類によってそれぞれ大きく異なります。

・稀少性 頻度
小児脳腫瘍は、小児がんの中ではもっとも多い固形腫瘍ですが、その頻度は、乳がんの100分の1、成人脳腫瘍の10分の1の頻度です。これらがさらに100種類以上の腫瘍から構成されますから、個々の腫瘍は多くが稀少がんということになります。

・発症する部位
小児脳腫瘍は,成人脳腫瘍と異なりテント下(小脳テントから下)に発症するものが多いのが特徴で、約6割を占めます。残り4割がテント上に発症し,まれに脊髄にも発症します.発症部位とよく見られる腫瘍を表に示します。同じ種類の腫瘍でも発症部位によって症状は異なりますし,治療方法も異なります。手術の難易度も腫瘍の発症部位に大きく左右されます。

小児脳腫瘍の発症部位と好発する腫瘍

発症部位

好発する腫瘍

大脳半球

星細胞腫
上衣腫
PNET
AT/RT

正中部
(松果体・視床下部)

星細胞腫
胚細胞腫瘍
頭蓋咽頭腫
松果体芽細胞腫

脳幹部

星細胞腫
PNET
AT/RT

後頭蓋窩
(小脳・第IV脳室)

星細胞腫
髄芽腫
上衣腫
AT/RT

脊髄

星細胞腫
上衣腫

PNET primitive neuro-ectodermal tumour未分化神経外胚葉性腫瘍,
AT/RT atypical teratoid/rhabdoid tumour非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍


・発症の仕方と早期診断の可能性
小児脳腫瘍の発症の仕方(はじめて症状がでてくるときの様子)は,発症部位と腫瘍が増殖する速さにより決まります.悪性度の高いものの方が、急激に症状が進むのが特徴で、発症から診断までの時間が短い傾向があります。最も多い症状は,腫瘍によって髄液の流れが遮られ(水頭症)頭蓋内の圧が上がっておきる症状(頭蓋内圧亢進症状)と腫瘍のある部位の神経の働きが抑えられてでてくる症状〔局所神経症状〕です。発症部位別に見た症状とその頻度を表に挙げます。

症状が出始めるころは,風邪や胃腸炎などの一般的な小児疾患の症状と区別をつけにくいことが多いので注意が必要です.このため,脳腫瘍を疑うまで時間がかかり早期診断は非常に困難なことが多いのです。CTやMRI、さらには最近のPETなど画像診断技術が発達した今日でも,診断までの時間は画像診断技術がなかった時代と比較して短縮されていないことが示されています.診断のためには,まれでも脳腫瘍の可能性があることを頭に入れて疑い,可能性が否定されるまでは注意深く経過を追うことが重要です。

脳腫瘍の診断がつくと,ご両親はもっと早く診断できなかったのかと自分たちを責めたり、最初に診断できなかった医療者を責めたりして,悩むことがしばしばあります。しかし実際には,小児脳腫瘍では、早期診断が予後の改善に結びつくことは期待できないと示されています。症状が出てから診断までの時間が短く,早期診断されるものほど悪性で腫瘍増大の速いものが多く,予後が悪いことが多いのです。

ご両親は、さらに発症の原因を求めて悩まれることがあります。成人の腫瘍とは異なり、出生前も含めて、何かが悪かったから発症する、というような腫瘍はほとんどありません。従って原因を捜しても答えが得られることはありません。

ご家族の皆様には、このような事情をよくご理解いただき、理不尽にご自身を責められたりすることなく、治療に向かっていただきたいと願います。

小児脳腫瘍患者の主な合併症と後遺症

大脳半球の腫瘍 頭蓋内圧亢進症状 47%
けいれん 38%
視神経乳頭浮腫 21%
中心性腫瘍(松果体・下垂体など) 頭痛 49%
眼球運動の異常 21%
斜視 21%
嘔気・嘔吐 19%
脳幹部腫瘍 歩行および協調運動の異常 78%
脳神経障害 52%
錐体路徴候 33%
頭痛 23%
斜視 19%
後頭蓋窩腫瘍 嘔気・嘔吐 75%
頭痛 67%
歩行および協調運動の異常 60%
視神経乳頭浮腫 34%
脊髄腫瘍 背部痛 67%
歩行および協調運動の異常 42%
脊椎変形 39%
局在性の脱力 21%
括約筋障害 21%

(文献3)より引用作成



・診断方法とその問題点
症状から脳腫瘍が疑われ,スクリーニングとしてCT検査が行われ,さらにMRI 検査が行われて診断に至る場合がほとんどです。CT検査は,短時間でできるため低年齢の子どもでも検査できますが,腫瘍の存在の確定が困難な場合もあり注意が必要です。MRI検査は,原則として造影剤を用いた検査が必要です。検査時間が長く,低年齢の子どもでは安静を保つために鎮静薬を用いる必要があります.頭蓋内圧亢進などにより全身状態が悪い場合には,鎮静薬を用いると、状態が急激に悪化する場合があり、十分な注意が必要です。
MRI検査により腫瘍の位置,各画像における腫瘍の様子,周囲組織への腫瘍の広がりとその程度,造影剤による造影効果,播種(転移)の有無などが明らかになり,症状・経過,年齢などを合わせて臨床的な診断が可能になります。しかし,臨床診断のみで診断を確定するのは困難なことも多く,症状を改善する目的からも、手術によって腫瘍を切除し,これを病理組織学的に検査することによって確定診断が可能となります。ただし,一部の腫瘍は臨床診断のみで病理組織検査は不要だとされます。

・治療方法とその問題点
治療は腫瘍の摘出が基本ですが,腫瘍の広がり方によっては、摘出は困難な場合があります。一方腫瘍の広がりかたや転移の可能性から、一部の良性の腫瘍を除いては,腫瘍が全摘出された場合も術後の治療が必要です。外科的治療,放射線療法,化学療法を組み合わせた治療(集学的治療)が行われます。
小児脳腫瘍には100もの種類があり,同じ種類の腫瘍でも発症部位,年齢によって治療の目標と方法は大きく異なります。たとえば良性腫瘍であっても部位によっては障害を起こさずに腫瘍を摘出することはできず,他の治療が必要になります。
放射線療法は,低年齢であればあるほど高次脳機能障害などの障害が大きくなります。本来放射線療法は有効な治療ですが,3歳未満の腫瘍ではなるべく用いずに化学療法で治そうとする試みが行われます。手術も、小脳の腫瘍の摘出などは、乳幼児では成人にはみられないような高次脳機能障害を来すことがあります。このように治療によって大きな障害を起こす可能性が高いことから、治療法の選択に制限があります。
このように腫瘍の種類,年齢,発症部位、さらには治療による合併症の可能性も考えながら、最適な診断と治療の方法を選択することが、非常に複雑で困難になります。適格な判断をするためには、小児脳腫瘍診療の拠点化が必要であり、その中で集学的治療と包括的診療をリードしていく専門家が必要です。私達は、そのような診療拠点となることを志し、専門家となることを志しながら、診療を展開してまいります。

・長期フォローアップの重要性
小児脳腫瘍の子どもたちは,治療後も表1に挙げるさまざまな問題に直面することがあります。これらの多様な問題の対応には多職種のスタッフから成るチーム診療(multidisciplinary team approach)が必要であり有効です。QOLの向上は小児脳腫瘍の治療における大きな目標のひとつであり,長期にわたり子どもたちとご家族のQOLを客観的に評価し,これを未来の治療方法に反映していく必要があります。

・緩和医療
小児脳腫瘍では,脳幹部腫瘍や乳幼児脳腫瘍など,現在も救命が非常に困難なものがあり,他の腫瘍も再発時には救命困難なことがあります。治療が難しく腫瘍が進行する場合,初発時と同様にさまざまな身体症状・精神症状が現れます。適切な対応によって症状の制御や緩和が可能な場合もあり,緩和医療的化学療法が効果を発揮することもあります。
症状をコントロールできれば,地域医療機関との連携によりご自宅での療養が可能になることもあります。症状,諸問題へのより適格な対応,在宅緩和医療システムの確立のためにも,治療のセンター化が望ましいと考えられます。

私たちの目標 小児脳腫瘍治療のセンターを志して
・小児脳腫瘍の専門施設として診断直後より小児科・脳神経外科・放射線科・病院病理部・リハビリテーション科・緩和ケア室など各科スタッフが共同し、速やかに診断・治療を進め、最新の最適な集学的治療を提供いたします。

・受診後から治療後まで、さらには成人期まで生涯にわたるあらゆる身体的・心理的・社会的問題に対応できるよう、医師・看護師・医療ソーシャルワーカー・臨床心理士など多職種チーム診療体制をとり、長期フォローアップ外来において支援を続けてまいります。

・次の世代の新たな治療を切り拓く臨床試験に参加し、推進してまいります。

参考文献
1) 国立がん研究センターがん対策情報センターがん統計研究部 院内がん登録室:がん診療連携拠点病院院内がん登録 2011年全国集計 報告書、2013;54-56.
(国立がん研究センター ホームページで下記のアドレスで公開)

http://ganjoho.jp/data/professional/statistics/hosp_c_registry/2011_report.pdf

2) Smith MA, Altekruse SF, Adamson PC, Reaman GH, and Seibel NL. Declining childhood and adolescent cancer mortality. Cancer. 2014,120(16):2497-506
3) Wilne S, , Collier J, Kennedy C, Koller K, Grundy R, and Walker D.Presentation of childhood CNS tumours: a systematic review and meta-analysis. Lancet Oncol 2007;8:685-95.

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低悪性度神経膠腫 Low grade glioma(LGG)

定義・概念・病因・病態・疫学

・低悪性度神経膠腫(low grade glioma, LGG)はWHO 悪性度分類grade I,IIの神経膠腫で、病理組織学的には悪性度が低いとされますが、思い合併症を起こして、死亡することもあり、良性の腫瘍とはいえません。脳・脊髄のどこにでも発症します。

・小児脳腫瘍の30-40%を占め、最も多い腫瘍です。どの年齢にも発症しますが、発時の平均年齢は6〜11歳です。視神経や視交叉といった視路(眼からはいった情報が伝わる経路)に発症する視神経膠腫瘍は乳幼児期に多い腫瘍です。

・神経線維腫症I型(neurofibromatosis I, NF1)では、視神経膠腫の発症が多くNF1患者の5-15%に発症します。視神経膠腫の50%がNF1の患者さんです。
結節性硬化症(tuberous sclerosis)では上衣下巨細胞星細胞腫(subependymal giant cell astrocytoma, SEGA)を合併することが知られており、診断基準のひとつにもなっています。全患者の15%でSEGAを認めます。

症状

症状は、発症部位によって大きく異なります。ゆっくりと症状が進行することが多いために、発症から診断まで時間がかかることが多いです。
・眼科学的症状:
視神経膠腫では、眼振(眼がゆれる)、斜視、視力の低下を初発症状として発症することが多いです。

・内分泌学的症状
視神経膠腫瘍では、思春期早発、思春期遅発、間脳症候群(成長の障害と極端なやせ)、下垂体機能低下、成長障害などの症状で発症することがあります。

・頭蓋内圧亢進
小脳星細胞腫では、脳脊髄液の通路を塞いで水頭症をおこす場合、あるいは腫瘍そのものが広がりによって、頭蓋内圧亢進症状を呈して発症する場合があります。症状によっては緊急の対処を必要とする。

・痙攣
焦点の種類によっては、原因としてテント上腫瘍の可能性があるため、CT, MRIによる精査が必要です。

・脳神経障害
脳幹部の腫瘍では脳神経が障害されて症状を認めることがあります。

・失調
小脳腫瘍、脳幹部腫瘍では失調(ふらつき)を認めることがあります。

・脊髄圧迫
脊髄腫瘍では感覚の異常,膀胱直腸障害(排便、排尿が困難)、筋力の低下など脊髄圧迫の症状を示します。

病理学的には低悪性度の腫瘍でありながら、診断時や再発時に播種(転移)を認め、その症状を認めることがあります。

診断

症状から腫瘍の存在を疑って、CT、 MRI検査で腫瘍が認められ、診断に至ります。

診断方法については国際的なコンセンサスが発表されています。NF1の患者さんで、画像検査で視神経膠腫瘍に典型的な所見がある場合は、手術をして腫瘍を検査すること(生検)は必要ないとされます。NF1患者さんでない場合にも、視神経膠腫や被蓋腫瘍など臨床経過と画像所見が典型的な場合には、生検は不要であるとされています。鞍上部腫瘍や脳幹部腫瘍で、他の病気との区別が困難な場合には手術(生検術)が行われます。

病理組織学的学的には、最も頻度の多い毛様性星細胞腫(pilocytic astrocytoma, grade I)の他、近年独立疾患とされた毛様粘液性星細胞腫(pilomyxoid astrocytoma, gradeII)、線維性星細胞腫(fibrillary astrocytoma, grade II)や混合性腫瘍など様々な腫瘍があります。最近の報告では、病理学的診断、病理学的悪性度が予後に与える影響が少ないことが明らかにされています。

治療

・治療の適応(治療を始めるかどうかの判断)
無症状で、偶然に発見された場合には、症状の出現や進行を認めない場合には、治療をせずに経過観察します。特に無症状のNF-1患者さんの視神経膠腫や、被蓋の腫瘍は、そのまま進行がないか、退縮する(自然に小さくなっていく)ことがあります。反対に既に症状を発症し、進行性してく場合は、ただちに治療開始を検討します。

・外科的治療
小脳星細胞腫の様に、重大な障害をもたらすことなく腫瘍の摘出が可能な場合には、腫瘍摘出が治療の第1選択になります。腫瘍が全摘された場合には、後に何も治療を加えなくてもそれだけで救命が可能です。最近の小脳星細胞腫の患者さんの追跡調査研究では、外科的治療のみでも、高次脳機能障害が認められることがあることが明らかになっており、手術方法に関し議論があります。時には障害の可能性を考慮して、部分摘出にとどめるべきであると考えられるようになっています。

・放射線治療
放射線治療は、かつては、切除困難な腫瘍の標準的な初期治療でした。しかし、放射線治療後の患者の長期追跡研究から、もやもや病などの脳血管障害、認知機能障害、内分泌機能障害、悪性転化、二次がんなどの容認しがたい数多くの合併症が起きることが明らかになりました。最近の成人期以降までの長期追跡調査では、放射線治療を受けたことが、長期の生命予後を左右することが明らかにされました。陽子線治療をはじめ、周囲正常組織への影響を軽減した最新の放射線治療でも、これらの合併症をどこまで軽減できるかは明らかでないため、他の治療による治療が困難な場合に限って放射線治療を採用するべきだと考えられています。

・化学療法
放射線治療による合併症を軽減するあるいは避けるために、化学療法は初期治療として導入されるようになりました。乳幼児で放射線治療を延期する目的で導入され、その効果が示されるようになり、しだいに適応年齢は年長児、思春期患者まで広がっています。カルボプラチン・ビンクリスチン併用、TPCV療法(チオグアニン、プロカルバジン、ロムスチン(CCNU), ビンクリスチン)、ビンブラスチン単剤治療など様々な方法がありますが、メトロノミック化学療法と呼ばれる長期的にわたる定期的な化学療法が有用であると考えられていいます。化学療法においても、QOLを考慮して、晩期合併症の可能性のある薬剤は極力用いないようにするするべきであると考えられ、TPCV、シスプラチン、エトポシド、テモゾロミドはその効果が他に優っていても、実地臨床では用いられない傾向にあります。特にNF1の患者さんでは二次がん誘発の可能性に注意が必要です。化学療法では、多くの場合に、腫瘍の進行阻止が可能ですが、腫瘍が消えることはほとんどありません。いずれの化学療法でも、治療後には50%近くで腫瘍が再燃し、治療が必要となります。この場合、もう一度化学療法を行うことが多くなっています。

・分子標的治療
最近の分子生物学的解析により、腫瘍に特徴的な遺伝子異常が明らかにされ、これを標的として治療の可能性がでてきました。

予後

アメリカの最新の成人期に移行した患者さんの追跡報告では、20年全生存率は87%と高く、単変量解析では、診断時年齢、発症部位、悪性度、腫瘍の切除度は予後を左右する因子となっておらず、多変量解析では放射線治療歴のあることのみが死亡のリスク因子となっていることが明らかにされました。治療による障害の有無が、QOLのみならず生命予後も左右する可能性があり、十分な配慮が必要です。腫瘍は、思春期から成人期までに活動性を失うことが多く、それまでにどのように、合併症の少ない治療で腫瘍を制御するかが重要です。治療にも関わらず、視機能障害、内分泌機能障害、運動障害が後遺症となることも多く、治療中から治療後まで、眼科医や内分泌専門医など多職種チーム医療が必要です。



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高悪性度神経膠腫 High grade glioma(HGG)

定義・概念・病因・病態・疫学

・WHO 悪性度分類グレード III,IVの神経膠腫で,脳・脊髄のどこからでも発症します。小児脳脊髄腫瘍の15%をしめ、どの年齢にも発症しますが10台の発症が多いです。半数は大脳皮質に発症し、残り半数は視床、視床下部、第三脳室、基底核に発症します。

・神経線維腫症1型(NF1)、神経線維腫症2型(NF2)で発症が多いことが知られています。

症状

症状は発症部位によって決まります。発症から診断までの急速に症状が進行するものもある一方、長期にわたって症状が続くものもある。

テント上腫瘍では、頭痛、痙攣、運動の障害が多く見られる。

基底核腫瘍では、舞踏病様運動といわれる異常な運動が認められます。

診断

他の腫瘍と同様、症状から腫瘍の存在が疑われて、CTやMRIなど画像診断により腫瘍が認められ診断に至ります。MRIでは、まわりの組織への浸潤性(しみこみ方)の強い病変として描き出され、周囲の浮腫(むくみ)を伴う場合が多いのが特徴です。
2)頻度は多くはありませんが、髄膜播種(転移)を起こす場合があるので、診断時から脊髄MRIで確認すうることが必要です。

治療

・外科的治療
診断を確定のためにも外科的治療(手術が)が最初の治療となりますが、腫瘍の摘出の程度は発症する部位に左右され、生検にとどまることがあります。90%以上の腫瘍切除が生命予後を左右することが報告されていますが、視床や視床下部、脳幹部などでは非常に困難です。

・放射線治療
術後放射線治療を行います。54グレイの局所照射が標準的です。

・化学療法
化学療法の併用は、北米でのランダム化臨床試験CCG-943で、放射線単独治療群に比較して化学療法併用群の生存率が上まわったことから、以後併用治療の臨床試験が続けられてきました。しかし、最近のテモゾロミドも、成人の様な明白な併用効果を示すことはできず、いずれもCCG-943を上回る効果を示したものがありません。治療中のQOLを考慮してテモゾロミドを併用する場合が多くなっています。

乳幼児期発症の腫瘍ででは、化学療法に対する反応が年長児とは異なり、手術、化学療法のみで救命可能な場合があり、手術後は化学療法を始めます。

予後

5年生存率は20%以下とまだ厳しい状況にあります。Grade IVの腫瘍は、Grade IIIの腫瘍に比較し、予後が良いことが明らかになっています。このほかMGMTのメチル化など分子生物学的予後因子が明らかにされています。

腫瘍の切除程度が予後に反映するが、多くの腫瘍では全摘出が困難です。



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脳幹部腫瘍 Brainstem tumors

定義・概念・病因・病態・疫学

脳幹部腫瘍は、小児中枢神経系腫瘍の15-20%を占める腫瘍です。発症時年齢の中間値は6-7歳で、まれながら乳幼児から成人期まで発症します。発症に性差はみられません。腫瘍は視蓋から中脳、橋、延髄、頚髄延髄移行部まで、脳幹部のあらゆる部位に発症します。このうち75%は、橋を中心にびまん性(しみこむように広く)に浸潤するびまん性内在性橋膠腫です(diffuse intrinsic pontine glioma, DIPG)。この他に脳幹部には視蓋、中脳、延髄・頚髄延髄移行部に局在性(focal)あるいは外方に増殖していくような(exsophytic)腫瘍が発症します。DIPGがWHO grade II〜IVの神経膠腫で、病理組織診断にかかわらず予後不良(治癒困難)であるのに対し、局在性あるいは外方増殖型の腫瘍はGrade I、IIの低悪性度神経膠腫で、予後が良好(よくなおる)なものが多いです。他には、PNETが脳幹部に発症することがあります。

症状

びまん性内在性橋膠腫(DIPG)は、失調(ふらつき)や脳神経の症状(顔面神経麻痺=泣いたり笑ったりしたときに左右差がでる、動眼神経麻痺=眼の動きがおかしい、眼の位置がおかしい、嚥下障害=食事や水分をのみこむことができない、構音障害=声を出すことができない)、手や足の筋力低下などで発症し、急速に症状がすすんで診断にいたるのが特徴です。

それ以外の腫瘍は、腫瘍のある部位によって症状が異なります。被蓋・中脳腫瘍は眼の動きの異常で気付かれることが多いです。そのほかDIPGと同様に脳神経の症状や、ふらつき、手や足の筋力低下で気付かれることもあります。DIPGと比較して症状の進行がゆっくりなことが多く、年単位でようやく診断にいたることもあります。

診断

症状から、腫瘍の存在が疑われ、CTおよびMRI検査によって脳幹部に腫瘍を認めて診断にいたります。DIPGと他の脳幹部腫瘍は、治療も予後も大きく異なるために、診断時にはっきりと区別することが重要です。

DIPGでは、臨床経過と画像所見が典型的であれば、病理組織所見に関わらず経過は一様であるため、手術をして腫瘍を調べる(生検)必要はないとされます。

DIPG以外の脳幹部腫瘍は、多くが悪性度の低い神経膠腫ですが、症状や経過と画像かではDIPGとの区別、悪性度の判断が困難な場合があり、手術(定位生検)を行い、組織診断によって治療方針を決めることが奨められます。

治療

・外科的治療(DIPG)
臨床的に典型的なDIPGと診断された場合には、生検を行わずに臨床的診断に基づいて治療を開始することが原則です。腫瘍の切除は困難あるいは不可能であり、部分的な切除もその後の経過を左右しないため、外科的治療の対象となることはありません。まれに診断時から、第四脳室を圧迫し、水頭症を併発する場合があり、その場合にはVP-シャント術(髄液の逃げ道をつくる手術)により改善を図ります。

・外科的治療(DIPG以外の腫瘍)
DIPG以外の脳幹部腫瘍は、多くが悪性度の低い神経膠腫ですが、一部悪性度の高い神経膠腫や他の腫瘍、あるいは腫瘍以外の病気が含まれるため、定位生検など手術によって病理組織診断を行うことが推奨されています。局在性腫瘍では、頚髄延髄移行部腫瘍は、画像診断と手術手技の技術の向上により腫瘍の全摘率は上昇しており、全摘出によって救命することが可能である。しかし合併症の可能性をよく検討しながら摘出を計画する必要がありあす。被蓋腫瘍(tectal glioma)は、多くは予後良好な腫瘍であり、脳脊髄液の通路を塞いで水頭症をおこした場合にのみ、第3脳室底開窓術やV-Pシャント術(いずれも脳脊髄液の逃げ道をつくる手術)によって髄液の流れを確保すれば、多くの場合それ以上に腫瘍を切除する必要はないことがわかっています。

・放射線治療(DIPG)
DIPGでは、診断後早期に、腫瘍に対し局所照射を行います。通常の分割照射による総線量54-60グレイの局所照射が標準的です。多分割照射法により60グレイを越える高い線量を照射する臨床試験が行われたが、放射線壊死の頻度が増加したのみで生存期間の延長を認めませんでした。最近は低分割照射の臨床試験が行われていますが、生存期間の延長を認めず、むしろ短くなる結果がでたものもあり、治療期間の短縮以外の利点は示されていません。

・放射線治療(DIPG以外の腫瘍)
局在性腫瘍の場合にも、放射線治療は効果的な治療ですが、低悪性度神経膠腫の項目でも書いておりますように、最近になって、放射線治療による晩期合併症がQOLのみならず生命予後(最終的になおるかどうか)を左右する可能性が最近になって示されるようになりました。このため、化学療法や手術など、他の治療方法では治療できない場合に限って用いられる傾向にあります。

・化学療法(DIPG)
DIPGに対しては放射線治療に、化学療法を併用する臨床試験が世界で数多く行われてきましたが、有用性が示されたものがまったくありません。このため、最初に化学療法を受けることはすすめられません。最近は、数多くの分子標的薬も本疾患を対象に臨床試験が行われていますが、有効性が示されたものがありません。化学療法は緩和医療で経口抗がん剤が用いられるにとどまっている。

・化学療法(DIPG以外)
他の低悪性度神経膠腫と同様に、腫瘍の切除が困難で、症状がある場合には、化学療法が用いられるようになっています。

予後

DIPGの2年全生存率で5-20%で、生存率の向上が近年も認められません。予後の改善のためには、腫瘍そのものから腫瘍特異的な遺伝子異常あるいはエピジェネティックな異常を見つけ出し、治療標的を見つけ、薬剤を開発する必要性があるとして、診断後腫瘍生検を行い、遺伝子異常検索、薬剤スクリーニングを行う臨床試験が欧米で開始されています。
局在性腫瘍は、被蓋中脳腫瘍の90-100%をはじめ、予後良好なものが多く、治療合併症が生命予後を左右する可能性も高く、QOLも考慮して、合併症を少なくする治療方針の採用がすすめられます。



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