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各疾患について
脊髄・脊椎疾患
脊椎・脊髄に対する手術
手術を考えている患者さんへ

患者さん御本人、ご家族など含めて、病気や治療法、そしてその中で手術が選択された理由などを理解されることはなかなか難しいものと思います。

従って、手術の説明の前に、病気の説明、手術の内容などを文書にてお渡しします。どうか、説明会の前に必ずお読みなっておいてください。

手術の内容を聞いてやはり、「やはり怖いので・」と言うこともありえるでしょうから、手術の説明の日時は、原則的に入院前に行うように、前もって患者さんご本人と相談います。

説明を聞いておく必要のある方、聞きたい方が、このときにおいでください。説明のあとで、時間が合わないなどの理由でこられなかった方に、突然説明を求められても、当診療部としての都合もありますので、原則としてお受けできません。(患者さんご家族、われわれも含めて全員の調整は難しいものでありますので)説明の時間は30分から1時間程度が多いと思います。

説明が終わりましたら、もう一度皆様でゆっくりと説明書をお読みください。よく内容を理解されないで手術に臨むのも好ましくないと思います。また、内容の中に「起きえる危険」などを記述してあります。昔はこのような怖い話はできるだけお話しないで患者さんの恐怖心を減らすのが医者側の思いやりと思われていました。しかし、現代では、自分の病気に関する全ての情報を知った上で、自分の身体をどうするかを自分の意思で決定する法律上の権利「自己決定権」が社会から求められています。

この重大な決定はすぐにと言うわけには行かないものでありますので、承諾をいただければ、後日(手術直前で結構です)大学の規定の書式に署名、あるいは捺印をお願い致します。

最後になりますが、手術を決定するには、迷われていたり、他の医師の意見もお聞きになりたい患者さん、ご家族もいらっしゃると思います。私どもも、このセカンドオピニオンというものを推奨しております。「ここへ行きたい」と申し付けいただいても結構ですし、あてがない場合、私どもの方から推薦も何箇所か致します。特に、脊椎脊髄疾患は整形外科で多く扱われております。すこし違う切り口で説明も受けられかも知れません。遠慮なく申し付けください。また、その際には、当該医療機関で再び同じ検査をお受けになると時間とお金を無駄にされると思いますので、これまでの検査(MRIなど)はお貸しいたしますので遠慮なく申し付けくださいませ。

手術までのおおまかな予定 (順番の前後はあります)
  1. 説明文書の受け取り
  2. 説明会への参加
  3. 手術の受諾の是非
  4. 手術前の全身状態の検査(心臓や肺の機能や肝炎やエイズのウィルスを持っているかなども含めて。
  5. 検査結果に異常がある場合、他の専門家への診察や場合によっては治療
  6. 麻酔科医師による診察(全身麻酔が安全にかけられるか否かの決定、麻酔に関する危険性などの説明)
  7. 手術同意書、輸血承諾書の提出
  8. 手術
手術全般に関する説明

ここでは、各種ある脊椎脊髄手術のうち、全般的に共通することをお話します。

診断名について

実際に見ているわけではなく、身体の外からいろいろな診断器械(MRIなど)や診察などで病気の名前を診断しています。ですので、我々が下した診断名は100%正しいわけではありません。悲しいかな「診断の不確定要素」というものがあります。今までほとんど知られていない病気や非常に稀な病気を最初から挙げるのは無理がおきますが、少しでも疑われる場合には、お知らせします。

治療を受けない場合の不利益

各疾患の説明のところで述べているつもりですが、必要に応じて再度説明いたします。

治療法の選択

誰でもいきなり“非生理的”な手術をお受けになりたいとは思われないと思います。
他の治療法(お薬による治療、放射線療法など)の可能性についても各疾患の説明のところで述べているつもりですが、必要に応じて再度説明いたします。

手術法の選択

手術技術が発達した現在では、同じ病気でも手術の行い方は、医者個人でも多少異なりますし、施設によっても異なります。具体的な手術方法の説明のところでは、学会関係でも知られている主な手術法を可能な限り提示して、私どもが選択している手術法について説明を行います。

手術の目的

病気の内容により異なりますので、各疾患の説明のところを参照ください。

手術の合併症

手術に際して、患者さんにとっていろいろな不利益なことは、人間が人間を扱う以上必然的に起こりえるものであります。これらを手術合併症と称しており、以下に挙げるようなものが含まれますが、これらの発生確率は当診療科では6%前後で推移しています。
冒頭で述べたごとく、怖いことが以下に列挙されていますが、治療側の「説明義務」とそれに基づく患者さん側の「自己決定権」の観点から必要なものとご理解くださいませ。

  1. 命にかかわる合併症
    (ア)全身麻酔にかかわるような、心臓、肺、脳などの重要臓器に障害が現れることがあります。偶発的な病気の発生と技術上の問題とがあると思いますが、特に高齢者では多いかと思います。詳しくは麻酔科医師にお尋ねください。
    (イ)手術中や手術直後、じっと足を動かさないでいやすいです。すると、エコノミークラス症候群と言って、足の血管に血の塊(血栓:けっせん)が出来てしまい、それが、後になって肺の方まで流れていって、肺の血管を詰まらせて、呼吸にトラブルが生じ、命も脅かすことがあります(肺塞栓:はいそくせん)。通常の予防手段はとっておりますが、完全に防ぐことは出来ません。
    (ウ)骨をいじる手術ですので、骨の中の脂肪組織がやはり同じように血管の中に入り肺塞栓をおこしてしまうことがありえます(脂肪塞栓:しぼうそくせん)。
  2. 神経機能的な合併症
    (ア)骨の中の脊髄やそこから出る神経を扱う手術ですから、触ることだけでも手術後に症状が出ることがあります(痺れや麻痺など)。この発生確率は手術内容により異なりますので、詳細はそれぞれの手術で説明します。
  3. そのほかの合併症
    (ア)手術をしたところにばい菌がつく「感染症」を起すことがあります。通常の手術では1%弱くらいかと思います、身体の中に金属などの異物を入れてくる手術の場合、3%程度の確率に上がると言われています。
    (イ)手術後に膀胱炎になったり、傷の治りが悪かったり、チューブのあとが身体表面の一部に残ったりなどの、種々のトラブルが起きることがあります。
    (ウ)手術前後で使用する種々のお薬などでのアレルギーも起こりえます。
入院についての説明
入院日

詳細は事務の方からお聞きください。手術の前々日か前日にご入院いただく場合が多いです。

入院中

入院されると病棟には受け持ちの担当医師(入院中の細かいところをケアしてくれる医師です)がおります。一般に脊椎脊髄の病気を専門的に扱っている医師ですが、そうではない脳神経外科の医師も病棟にはおり、面倒を見てくれます。専門ではないものの、同じ脳神経外科でいつも手術のケアは行っていますので、安心して、何でもお聞きになってください。また、病棟では一番心強い受け持ち看護師がつきますので、なんでもご不安なことはお聞きになってください。手術前夜から手術後までの細かなことはお尋ねください。

手術当日

朝からの手術の場合には8:15に手術室に入る(入室)が多いです。朝一番ではない場合には、その前の手術時間にもよりますので、大体の手術室に入る時間は前日にわかります。時間が前後することはお許しください。
食事、飲水、服装などの件は看護師から連絡があります。

手術が3時間予定であったとしても、入室して麻酔準備なども含めて手術が開始されるのは1時間30分くらい先です。手術が終了してからも、回復室でお休みいただき(1時間から2時間)ご自分のお部屋に戻りますので、お部屋を出てから戻るってくるのに、手術前後の3時間を足して6時間後になると思ってください。多少手術時間が長くなることもございますので、「いつまでも戻らない・・」とあまりご心配なさらないで下さい。

私どもからのお願いは、手術が行われて、一般には終了した時点でご家族の方に手術内容の報告をしますので、どなたかご理解されておられる方お一人でも結構ですので、病室の方でお待ちいただきたく思います。時間的な目安としては、3時間予定の手術の場合、手術開始から2時間後くらいから待機をお願いしたいです。病室、あるいは病棟から出られる場合は、看護師の方に一報をお願いします。

手術後

背骨の手術をするわけですが、そこに至るには、首でも腰でも、多くの筋肉などを傷つけながら手術をするわけです。したがって、手術後は傷の痛みというのが大なり小なり生じます。極力少なくするよう手術技術でカバーできるようにはしているものの、やはり痛いものは痛いと思います。その際には、遠慮なく、申し付けください。痛み止めなどのお薬を使えるような手配はされています。また、同じ格好をして寝ているだけでも、背中や腰は痛くなります。ですので、手術直後から例外を除いて、寝返りなどはうっていただいて構いません。

首や腰の周りにはカラーと言って、簡単な外からの固定器具をつけることが多いです。手術前後で、会社の方に採寸してもらいます。

退院までは?

食事なども通常翌日から出ます。また、病室の周りやトイレなどは歩いてもらう場合が多いです。手術の内容によっては違う場合がありますので、その際には別途指示をお出しします。

点滴などは、一般には手術後4日目までは行います。それ以降は、患者さんにより異なります。

90%程度の方は、手術後に大きなトラブルはなく7日目に傷を留めているホッチキス®のようなものをはずしますので、その日以降に御退院が可能と思います。退院の日取りや退院後の外来受診のスケジュールなどは病棟の担当医と相談されてくださいませ。

手術の内容によっては、手術後に手術前よりも状態が悪くなる方もいらっしゃいます。その程度により、入院を続けてリハビリテーションを行っていただくこともあります。それ以外は、リハビリテーションなどは受けていただくことはありません。

先に述べた手術合併症が起きてしまった方では、残念ですが、この様なタイムスケジュールでいかない場合があります。その際にも診療スタッフを初め患者さんのためにベストな治療計画の下に頑張るつもりであります。ご不安もあるかと思いますので、患者さんご本人には逐次報告しますが、ご家族なども含めて今後の見通しなどに関して説明する機会を設けたいと思います。

頚椎前方除圧固定手術

首の前の部分を切開し、首の部分の脊椎(頚椎:けいつい)に前方から侵入する方法です。

手術の目的

脊髄や神経を圧迫している軟骨である椎間板やガタガタにより生じた骨の棘(骨棘:こつきょく)をある程度取り除き、ぐらぐらしている椎間板のスペースが動かないように固定しようとする手術です。椎間板のスペースにケージ(右下)と言うものを入れて、2,3ヵ月後に徐々にケージの周りに自分の骨が出来てきて、椎間板が自分の骨で満たされるようになり、固定が完了するものです。
これにより、脊髄に対する圧迫を解除して、これ以上脊髄の障害が起きないように進行予防をする、あるいは、神経の圧迫を解除して、なおかつグラグラをなくして、少しでも今の症状が良くなることを目的とする手術です。

手術の成功の確率

自分たちが大きなトラブルもなく予定通りに手術が遂行できる確率は95%以上あると思います。そうすれば、上記の最低限度の目的である、「症状の進行予防」は成し遂げられるのではと思っております。

手術法

手術は全身麻酔で行います。

首のしわに沿った皮膚を通常、5cmほど切開します。右の図のようなルートで頚椎の前の部分に到達して、病んでいる軟骨である椎間板やガタガタにより生じた骨の棘(骨棘:こつきょく)を顕微鏡で拡大して取り除きます。

これにより、頚椎の中の脊髄やそこから出る神経への圧迫がある程度解除されたところで、胸の前の骨(胸骨:きょうこつ)から骨の一部を取り(胸の前の部分に3cmほど切開します)、その骨をチタンで出来たケージというケースの中に埋め込みます。その自分の骨で満たされたケージを取り除いた椎間板のスペースに挿入します(右図)。
あとは、首の傷を縫合して手術を終えます。

ケージには様々な種類がありますが、私たちが開発したケージは2010年にアメリカの脳神経外科学会誌に掲載され、他の病院の脳神経外科や整形外科でも広く使用されています。
(Tani, S, et al: A unique device, the disc space-fitted distraction device, for anterior cervical discectomy and fusion: early clinical and radiological evaluation. J Neurosurg Spine 12(4): 342-6, 2010)


手術の合併症

手術に際して、患者さんにとっていろいろな不利益なことは、人間が人間を扱う以上必然的に起こりえるものであります。これらを手術合併症と称しており、以下に挙げるようなものが含まれますが、これらの発生確率は当診療科では6%前後で推移しています。
冒頭で述べたごとく、怖いことが以下に列挙されていますが、治療側の「説明義務」とそれに基づく患者さん側の「自己決定権」の観点から必要なものとご理解くださいませ。

  1. 命にかかわる合併症
    (ア)全身麻酔にかかわるような、心臓、肺、脳などの重要臓器に障害が現れることがあります。偶発的な病気の発生と技術上の問題とがあると思いますが、特に高齢者では多いかと思います。詳しくは麻酔科医師にお尋ねください。
    (イ)手術中や手術直後、じっと足を動かさないでいやすいです。すると、エコノミークラス症候群と言って、足の血管に血の塊(血栓:けっせん)が出来てしまい、それが、後になって肺の方まで流れていって、肺の血管を詰まらせて、呼吸にトラブルが生じ、命も脅かすことがあります(肺塞栓:はいそくせん)。通常の予防手段はとっておりますが、完全に防ぐことは出来ません。
    (ウ)この手術のルートは、喉の前にある肺に空気を送る「気管」、胃に食物を送る「食道」、その脇には、脳へ血液を送る「頚動脈」、また、頚椎の横にはやはり脳へ血液を送る「椎骨動脈」があります。これらを万が一傷つけると、命にかかわることがあり得ます。
    (エ)どんな手術でも、手術後に出血が新しく起きてしまい、それが徐々に手術したところに溜まることがあります。この前方手術では、これにより気管が圧迫されて息ができなくなるトラブルが起こりえます。今まで1度だけ起きました。幸いに命には別状はありませんでした。
  2. 神経機能的な合併症
    (ア)椎間板や骨棘を取り除いているときに、中の脊髄や神経を傷つけることがあります。これにより、術後に手の痺れが強くなったり、手や腕が上がらなくなったり、などと言う感覚障害や運動障害を起してしまいます。神経を切ってしまうことはごくごく稀ですので、徐々にとは思いますが、時間とともに改善してくれることが多いです。
    (イ)脊髄や神経まで切ってしまうことはないのでしょうが、それらを包んでいる膜(硬膜:こうまく)を傷つけてしまうことがあります。すると、膜の中では脳からの水(髄液:ずいえき)が脊髄の方まで循環していますので、お水が漏れてしまうことがあります(髄液漏:ずいえきろう)。その水漏れを放置しておくと、傷の表面まで溢れてきて、逆にそこからばい菌が入り込む(感染)ことがあり危険な状態となります。それを防がなくてはなりませんので、髄液漏を発見した場合、針で縫い合わせても、針穴から水が漏れてしまうので、フィブリングルーと言う血液の製剤から出来た「糊」のようなものをそこに塗ってくる事があります。
    (ウ)神経と言っても脊椎からは離れているのですが、ルートの図にもありますが、気管と食道の間にある声帯へ行く神経を押してしまい、術後に「声がかれる」と言う方がいらっしゃいます。しかし、徐々にですが改善することが多いです。
  3. そのほかの合併症
    (ア)本手術でおきえることとしては、やはりケージと言う異物を使う手術ですので、感染が起きる確率が2%程度はあります。もしも、感染が診断されたときには、異物であるこのケージを取り除く手術を行うことになると思います。
    (イ)昔は骨盤の骨からとった自分の骨を椎間板のスペースに入れておりました。しかし、ちゃんと骨同士がくっつく(癒合する)確率が90%程度であり、骨盤の傷跡もいたときがあることから、10年ほど前より、チタン製のケージを使っており、これによる癒合率は92%程度になっています。しかし、今でも1,2%は癒合を起さなかったり、ケージが移動することがありえると思います。
    (ウ)手術後に膀胱炎になったり、傷の治りが悪かったり、チューブのあとが身体表面の一部に残ったりなどの、種々のトラブルが起きることがあります。
    (エ)手術前後で使用する種々のお薬などでのアレルギーも起こりえます。
他の手術法の選択

私たちは固定材料にチタンで出来たケージを使用しています。このケージにはいろいろな形状のものが開発されていますが、私たちが使用するものも、現在では整形外科脳神経外科で広く使われているものです。このチタンのケージの代わりにセラミックで出来たもの(スペーサー)を挿入する先生もいらっしゃいます。そのほかでは、自分の骨盤の骨を採取して用いるもの、さらに、その上にチタン製のプレートとスクリューで固定するものがあります。

自分の骨では、癒合率が悪いかもしれない、さりとて、プレートを使うと、プレートやそれを固定するスクリューでのトラブルが怖いこと、セラミックは骨癒合の時期が遅いように思えることより、私たちはケージを使用しています。

頚椎前方除圧固定手術

首の後ろの部分を切開し、首の部分の脊椎(頚椎:けいつい)のワッカを後ろから広げるイメージの手術をします。

手術の目的

脊椎の中のワッカ(脊柱管)に入っている脊髄が圧迫されているので、その入れ物の後ろの部分を広げようとする手術です。脊髄の入れ物の形は変えられますが、脊髄の傷を戻すものではありません。したがって、脊髄の傷は残りますので、手術の目的は脊髄由来の症状を良くするためではなく、これ以上脊髄の障害が起きないように進行予防をすることであることをご理解ください。

手術の成功の確率

自分たちが大きなトラブルもなく予定通りに手術が遂行できる確率は95%以上あると思います。そうすれば、上記の最低限度の目的である、「症状の進行予防」は成し遂げられるのではと思っております。

手術法

われわれが行っている椎弓形成術の手術方法は、2001年にアメリカの脳神経外科学会学会誌、および脊椎脊髄外科の医学専門誌に掲載されましたが、それを紹介します。

手術の実際

全身麻酔をかけて手術を行います。
首の後ろの部分に約10cm程度のまっすぐな皮膚の傷(切開)を作り、そこから頚椎に達してゆきます。
下の図のように操作をして、頚椎の輪(脊柱管といいます)の後ろの部分の「屋根」これを椎弓と呼びますが、これにドリルなどで切開を加えて、椎弓を持ち上げるわけです。
それにより、脊柱管はこれまでより後方に5mmくらいはスペースが出来ることになり、圧迫を受けている脊髄は後ろに逃げることが出来るわけです。
通常、この手術は3時間以内で終わり、出血量も多いものではありませんので、輸血する必要はゼロに近いです。

手術法の変遷について

前項で紹介した方法は、多くの施設で行っているものと大きく差はありません。椎弓部分を持ち上げたときに、それを固定するためスペーサーというもの(図のグレーで描かれている2つのもの)を挿入する場合がほとんどです。私達は、セラミックで作成したスペーサーを使った方法、その後、スペーサーを入れない方法を行ってきました。そして現在、持ち上げた椎弓とスペーサーの安定性を向上させるために、チタン製のスペーサーを開発し、2010年に日本の脳神経外科学会雑誌に掲載されました。このように、私たちは常により良い手術方法の開発を行っております。
(Tani S, et al: New titanium spacer for cervical laminoplasty: initial clinical experience. Technical note. Neurol Med Chir (Tokyo) 50: 1132-6, 2010)

手術の合併症

手術に際して、患者さんにとっていろいろな不利益なことは、人間が人間を扱う以上必然的に起こりえるものであります。これらを手術合併症と称しており、以下に挙げるようなものが含まれますが、これらの発生確率は当診療科では6%前後で推移しています。
冒頭で述べたごとく、怖いことが以下に列挙されていますが、治療側の「説明義務」とそれに基づく患者さん側の「自己決定権」の観点から必要なものとご理解くださいませ。

  1. 命にかかわる合併症
    (ア)全身麻酔にかかわるような、心臓、肺、脳などの重要臓器に障害が現れることがあります。偶発的な病気の発生と技術上の問題とがあると思いますが、特に高齢者では多いかと思います。詳しくは麻酔科医師にお尋ねください。
    (イ)手術中や手術直後、じっと足を動かさないでいやすいです。すると、エコノミークラス症候群と言って、足の血管に血の塊(血栓:けっせん)が出来てしまい、それが、後になって肺の方まで流れていって、肺の血管を詰まらせて、呼吸にトラブルが生じ、命も脅かすことがあります(肺塞栓:はいそくせん)。通常の予防手段はとっておりますが、完全に防ぐことは出来ません。
  2. 機能的な合併症
    (ア)手術の傷や首の後ろの部分の筋肉痛は手術後数日で取れますが、慢性的な首の後ろの「こり」はこの手術では宿命的に背負わなくてはなりません。これは、胃腸の手術を行えば、お腹の筋肉は切りますので、お腹が硬くひきつれるのと同じことです。
    (イ)椎弓を持ち上げる操作の途中に、脊髄や神経を圧迫してしまい、今よりも一時的に脊髄や神経の症状、具体的には「手がしびれる」「腕が曲がらない」などの症状が出る可能性があります。
    (ウ)脊髄や神経を包んでいる膜(硬膜:こうまく)を傷つけてしまうことがあります。すると、膜の中では脳からの水(髄液:ずいえき)が脊髄の方まで循環していますので、お水が漏れてしまうことがあります(髄液漏:ずいえきろう)。その水漏れを放置しておくと、傷の表面まで溢れてきて、逆にそこからばい菌が入り込む(感染)ことがあり危険な状態となります。それを防がなくてはなりませんので、髄液漏を発見した場合、針で縫い合わせても、針穴から水が漏れてしまうので、フィブリングルーと言う血液の製剤から出来た「糊」のようなものをそこに塗ってくる事があります。
    (エ)基本的に脊髄を助けるために椎弓を後ろへ移動させるわけですが、それにより脊髄が急に後ろへ移動するので、脊髄から出る神経が引き伸ばされてしまい、上の(イ)と同じような症状が出ることがあります。腕が上がりにくいとか肩の周りがしびれるなどの症状がでます。3%くらいには起き得るといわれています。通常は、6ヶ月から1年くらいで戻る場合が多いです。
    (オ)手術後にせっかく持ち上げた椎弓が落ち込んでしまい、再閉鎖という事態になることがあります。
    (カ)頚椎の手術をするので、頚椎全体の並び方(アライメントと呼びます)が悪くなり、生理的には前に弓なりのアライメントが崩れて、トラブルを起こすことがあります。
    (キ)どんな手術でもつき物ですが、ばい菌がついたり、術後に出血など起こす可能性があり得ます。手術後に膀胱炎になったり、傷の治りが悪かったり、チューブのあとが身体表面の一部に残ったりなどの、種々のトラブルが起きることがあります。
    (ク)手術前後で使用する種々のお薬などでのアレルギーも起こりえます。
他の手術法の選択

他の施設でも、持ち上げた椎弓を固定する種々のついたて(スペーサーと称しています)が使われています。基本的には同じ目的であり、大きな違いはありません。

頚椎前方除圧固定手術
手術の目的

手術によって得られるものと失うものがあります。
手術をすることによって筋肉は傷つくので、手術後に腰が重いなどの症状はでます。
手術により、症状(足の痺れや痛み)が改善する確率は一般的には90%以上望めると思います。しかし、すべて消失するというより、「改善する」「良くなる」「日常生活に耐えられる」というものであると思います。

手術方法

手術は全身麻酔で行いますが、実際、種々の手術方法があります。手術時間は患者さんの手術部位の状態によって異なりますが、どの手術法でも、通常2-4時間くらいです。ここでは代表的な方法を紹介し、今回、このなかで患者さんに一番あった方法を選択します。

1.片側進入、脊柱管減圧術

多く場合、腰の後ろの皮膚を5-10cmくらい切って、後ろから圧迫を解除する手術を行います。背中の筋肉を片方だけ広げて、腰椎の後ろに達します。そして、後ろの部分(椎弓)を削り、さらに顕微鏡を使って反対側まで削ります。そこで、厚くなった靭帯を取り除き、神経の圧迫を解除するわけです。(右の図のグレーの部分です)


2.両側進入、開窓術

同じように腰の後ろを5-10cm程度切開して、両側の筋肉をよけて、右の矢印のイメージで、それぞれの側から脊柱管の後ろの部分を削り取り除く手術です。片側進入に比べると、腰の筋肉のダメージが両側に広がります。しかし、腰椎の真ん中の後ろの部分(棘突起)を残しておき、その部分を上下の腰椎の連結に使う場合に用います。


2.両側進入、開窓術

2と同じように切開しますが、棘突起を真ん中で割ってから、展開します。これにより筋肉のダメージを少なくしようとするものです。1の片側進入と異なり、真上から見ることも出来るので、より確実に神経の圧迫を取り除くことが出来ます。しかし、棘突起という腰椎の上下の連結部分を一時的に破壊することになります。しかし、割った骨は多くの場合あとでくっつきますので、心配は要りません。


手術の危険性は?

手術そのもので命にかかわることはありません。麻酔をかけるという問題や、術後に肺炎や血栓症(エコノミークラス症候群)を起こしてしまうと生命にかかわることがありますが、これはどの手術でも起こり得ることです。
その他で起き得ることは以下の事柄です。これら全体で、5-10%程度だと思います。

  1. 骨を削っているときや、靭帯を切除しているときに、神経を傷つける、あるいは切ってしまうということが起こりえます。
  2. 神経は膜に包まれていてその中に髄液という水が循環しています。手術に際して神経は切りませんが、膜を傷つけ、髄液がもれることがあります。それが皮膚の下まで来て、ばい菌が入ってしまうことがあり得ます。髄液漏と呼びます。この髄液漏が出来た場合は、ヒトの血液から成分だけ抽出した「フィブリン糊」を使うことがあります。
  3. この手術では、腰椎の接続部分は極力傷つけないように行います。削りすぎた接続部分は戻らないので、いつも「削り過ぎないように」と心がけています。ですので、終わってみると削り足りなかったということがあり得るわけです。その場合、症状の改善が良くないので、もう一回ということもあり得るわけです。
  4. 一方、接続部分を削らないように注意していますが、これにより連結が弱まり、腰椎の「ずれ」を起こす、つまり「すべり症」を悪化させることがあります。また、グラグラが残っていると、再び圧迫を解除した部位が狭くなり、症状が再発することがあります。この4と5の二つの問題は、術後しばらくしてから判明することになります。
手術後は?

傷の痛みは3日程度続きますが、われわれが行っている方法でしたら、昔ながらの方法と異なり、手術の翌日からトイレくらいは歩いてもよろしいでしょうし、ベッドの上で座ることもできます。したがって、術後の老人ボケとか肺炎・血栓症なども起こりにくいでしょう。
傷が綺麗になった7−10日後くらいには、多くの方は退院されます。

スタッフ紹介

谷 諭(たに さとし)
医学博士
教授
附属病院手術部部長

1979年(平成12年)東京慈恵会医科大学卒業
東京慈恵会医科大学附属病院研修医を経て、1981年に同脳神経外科講座助手
1982?83年 東京都立神経病院に国内留学
1984?86年 米国Loma Linda大学脳神経外科に留学
1990年 東京慈恵会医科大学 講師
2000年 同 助教授
2007年 同 附属病院中央手術部 診療部長
2008年 同 脳神経外科講座 教授、現在に至る。


日本脳神経外科学会 認定医
日本医師会 認定スポーツ医
日本医師会 認定産業医
日本体育協会 認定スポーツ医
日本脊髄外科学会 指導医

所属学会
日本脳神経外科学会(評議員、保険委員)、日本脊髄外科学会(理事、編集委員、教育委員)、日本脳神経外傷学会(総務委員、幹事)、日本臨床スポーツ医学会(評議員、理事、学術委員)、頭部顔面外傷研究会(幹事)、東京脊髄倶楽部(代表世話人)、International faculties of Asia Pacific Cervical Spine Society Meeting(director)、Spinal cord club(幹事)、スパインフロンティア(世話人)、房総脊椎脊髄手術手技研究会(幹事)日本脊椎・脊髄神経手術手技学会、日本脊髄障害医学会

趣味:ゴルフ、テニス、家族旅行
血液型:A型
星座:おとめ座

大橋 洋輝(おおはし ひろき)
医学博士 医局長

2000年(平成12年)東京慈恵会医科大学卒業
東京慈恵会医科大学附属病院研修医を経て、東京慈恵会医科大学大学院へ進学
その間、国立精神・神経センター神経研究所へ3年間国内留学する。
2006年(平成18年)より東京慈恵会医科大学脳神経外科講座助手、現在に至る。

主な研究分野として、マウス神経系前駆細胞を用いた神経再生に関わる研究や脳動脈瘤の血管壁再生治療の研究、DynaCTを術中イメージングとして用いた脊髄脊椎手術、チタン製スペーサーを用いた頚椎椎弓形成術の構造解析、下肢麻痺による歩行障害を改善する歩行器、装具の開発、サッカーのヘディングで生じる頭部外力の推定と脳振盪への影響などがある。
臨床面では主に脊髄脊椎の外科手術や神経内視鏡を用いた脳内血腫除去手術、痙縮に対するバクロフェン髄注療法の手術を行っている。
社会活動として独立行政法人日本スポーツ振興センターや文部科学省を通して学校体育、運動部活動における頭頚部外傷事故防止の啓蒙活動や日本サッカー協会管理下の頭部外傷事故の防止について啓蒙を行っている。

日本脳神経外科学会専門医
日本脊髄外科学会認定医

所属学会
日本脳神経外科学会、日本脳神経外科コングレス、日本脊髄外科学会、日本神経内視鏡学会、日本臨床スポーツ医学会、日本再生医療学会、日本PED研究会

主要論文
Ohashi H, et al. Alpha 1-adrenoceptor agonists protect against stress-induced death of neural progenitor cells. Eur. J. Pharmacol. 573, 20-28, 2007 2007 Jul 12;

趣味:サッカー観戦、家族旅行
血液型:AB型
星座:おひつじ座

川村 大地(かわむら だいち)
助教



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