てんかんに対する治療には、大きく分けて薬物治療と手術治療があります。およそ70%のてんかん患者さんは"抗てんかん薬"と呼ばれるお薬での治療が可能ですが、複数の薬剤を組み合わせても十分な発作の抑制が得られない場合、"難治性てんかん"として手術治療が検討されます。しかしながら、手術治療は患者さんへの身体的な負担が大きいにも関わらず、確実な効果が得られるとは限りません。そのため、手術治療以外の第三の治療法として、当科では"経頭蓋磁気刺激(Repetitive Transcranial Magnetic Stimulation: rTMS)"に着目しました。rTMSは国内外でその有用性、安全性が報告されておりますが、我が国では未だ保険診療として認められていないため、研究という形で同意いただいた患者さんにのみ治療を行っております。rTMS自体の治療費はかかりませんが、2週間の入院が必要となるため入院費用はご負担いただき、この間に難治性てんかんに対して必要な検査(血液検査、脳波検査、脳血流検査(SPECT)など)も行います。rTMSの安全性・有効性を改めて国内外に示し、多くの患者さんに当たり前の治療として提供できることを目指しています。(研究概要は「臨床研究実施計画・研究概要公開システム(jRCT)の公開ページはこちら」をクリック)
てんかんとは、脳の電気的な活動がみだれる事により、意識が悪くなったり勝手に顔や手足が震えたりする病気で、国内には約100万人の患者さんがいると言われています。(詳細はページ下段「てんかんについての詳細はこちら」をクリック)
てんかん発作は短時間で自然におさまる事もありますが、予期せずに発作が起きるためにやけどや転倒・階段からの転落、入浴中におぼれたり、夜間に呼吸が悪くなったりといった危険な状況に見舞われることとなります。したがって、安全に暮らしていくためには、てんかん発作をしっかりと抑える事が重要です。
てんかん発作に対する治療の第一歩は抗てんかん薬とよばれるお薬での治療ですが、適切な抗てんかん薬の治療でもてんかん発作が十分にコントロールできない患者さんが約30%いらっしゃると言われています。この状態は難治性てんかんと呼ばれ、お薬の次の治療が検討されます。
薬物治療以外の治療は、現状手術治療しかありません。手術治療にもいくつか種類があり、おおよそ以下の通りです(詳細はページ下段「てんかんについての詳細はこちら」をクリック)。
開頭手術によっててんかんの原因(てんかん焦点)となる脳の一部を切除する
発作をコントロールするための機械(迷走神経刺激装置:VNS)を体(頚部と胸部)に埋め込む
これらの治療は一定の効果が期待できますが、全身麻酔を要し体にメスをいれる侵襲的な治療となります。
そのため、より患者さんへの身体的負担が少ない治療が望まれます。
薬物治療、手術治療以外の第三の選択肢として、最近海外を中心に注目されているのが経頭蓋磁気刺激(rTMS)という方法です。磁気刺激によって脳の電気活動を亢進させたり抑制させたりできることが知られており、我が国ではうつ病の治療などに用いられています。難治性てんかんは、いわば脳の異常な興奮ですから、興奮しているところ(てんかん焦点)を見極め、その部分の脳を抑制させる磁気刺激を皮膚・頭蓋骨を介して与えることで、体にメスをいれずに発作を抑制できることがわかってきました。磁気刺激ですので、図のように磁気を発生させる装置を頭に接着させて治療を行います。1回の治療は20分程度で、これを1日2回、計10日間の治療を行います。そのため、治療を希望される患者さんには入院をお願いしております。
なお、本研究で使用する経頭蓋磁気刺激装置(インターリハ社 MagPro R30)は、脳の運動機能を見極める検査機器として厚生労働省の認可を受けていますが、てんかんに対する治療機器としては認可されていないため、治療を受けていただくためには、研究にご参加いただく必要があります。
安全性・効果性が十分に確立されていない治療を患者さんに行うには、特定臨床研究として厚生労働省に届け出る必要があります。当科では、既に臨床研究審査委員会(CRB)、厚生労働省の承認を経て2021年6月より研究を開始しております。
治療をご希望される患者さんには、当科てんかん専門外来を受診していただき、十分な説明を受けていただきます。その上で、参加に同意された患者さんにのみ治療を行います。また、参加表明後に撤回することも可能です。
研究というとネガティブなイメージを持つ方もいらっしゃるかもしれませんが、当科では科学的根拠に基づき、患者さんが安全に治療を受けられるよう万全の体制を整えております。興味のある患者さんは下記までご連絡ください。
脳神経外科 てんかん専門外来 担当医師 海渡信義 kaito@jikei.ac.jp
rTMS治療そのものの費用はかかりませんが、治療は2週間かかりますので、その際の入院費用は患者さんにご負担いただいております。また、難治性てんかんの検査として必要な検査については保険診療の範囲内で患者さんにご負担いただいております。