脊椎脊髄疾患

脊髄硬膜動静脈瘻

脊髄硬膜動静脈瘻

脊髄は、脳と同様に動脈と静脈が存在していて、脊髄を取り囲む硬膜という膜に動脈と静脈が存在しています。
通常血液は、動脈から毛細血管に入り、脊髄や硬膜を栄養して静脈に流出しますが、これが毛細血管を介さずに、静脈に圧の高い動脈が直接流入することがあり、脊髄動静脈シャントと言われています。このような病態は硬膜の内部の脊髄の表面に起こることもあれば、硬膜内、そして硬膜外の血管で起こることもありますが、脊髄硬膜で動静脈のシャントがある場合、脊髄硬膜動静脈瘻と呼ばれます。中高年の男性に発生することが多く、胸椎、腰椎、仙骨、頭蓋頚椎近傍などに発生します。脊髄の血管奇形の中では最も数の多いものです。多くの場合原因は不明ですが、外傷、脊椎手術などが原因となることもあります。硬膜上に動静脈のつながりがあり、圧の高い静脈血流が脊髄表面に流れ込み、脊髄のうっ血が起こり、脊髄の浮腫と機能の障害を起こします。

症状

一般的には脊髄静脈還流障害による上肢または下肢のしびれ、麻痺、歩行障害、直腸・膀胱障害による排尿・排便障害を来たします。徐々に症状が悪化する場合が多く、治療が必要です。症状が腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症と似ていることから、正確な診断診断がされないままヘルニアの手術を受けている方もいらっしゃいます。また、くも膜下出血を起こして病院に搬送される患者さんもいらっしゃいます。

診断はMRI検査が有用で、脊髄表面の拡張した静脈の描出や脊髄のうっ血を見ることによって診断可能です。また、詳細に異常血管を調べるためには造影剤を用いた脊髄血管の3D-CTAや脊髄血管撮影(カテーテル検査)を行います。

治療

硬膜動静脈瘻では一般にゆっくり脊髄症状が進行しますが、出血や急速に進行する脊髄梗塞のため四肢麻痺や対麻痺が急速に進行することがあります。術前の神経症状が進行した場合、手術も困難になり術後回復も思わしくないため早期診断・治療が望ましいです。症状を来している場合には治療適応となります。
患者さん一人一人で病態が異なりますので、治療方法はMRI検査やカテーテル検査で精査を行った上で、最適な治療方法を提案させていただきます。治療方法は大きく分けて血管内治療と手術治療がありますが、これらを併用する場合もあります。
血管内治療では太ももの付け根から細いカテーテルを挿入し、異常血管を詰めていくことによって脊髄の血液の流れを正常に戻します。それによって脊髄のうっ血が解消され、症状の改善が得られます。
手術治療では、全身麻酔下でうつ伏せの状態で手術用顕微鏡下に行います。背中に皮膚の切開を行い、背骨のまわりの筋肉をわけ、骨の一部分を削ります。手術前の検査と術中の所見からシャント部を確認しますが、実際はシャント部やその血管が非常に小さく、同定は容易ではありません。手術中に脊髄血管撮影を行って確認することもあります。正確にシャント部を同定し、同部を遮断すれば手術の目的は完遂です。しかしシャント部が複数ある場合も多く、1回の手術では全てを処置できない場合もあります。疑わしい血管を遮断してそれが正常な血管であった場合重篤な後遺症を残すことから、確実なものしか処置は行わず、手術後に再検査を行って再手術を行うこともあります。
手術後は脊髄の循環が大きく変化し一時的に症状が悪化すこともあり、リハビリテーションを行なってもらう場合もありますが、特にリハビリテーションが必要なければ術後1週間程度で退院していただいております。


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