脊椎脊髄疾患
血管芽腫は脊髄内に発生する血管の塊のような良性腫瘍で、孤発性のこともありますが、Von Hippel-Lindau病の一つとして生じることもあります。脊髄周囲に浮腫や嚢胞(空洞)を引き起こすことが多く、それによって症状を呈します。Von Hippel-Lindau病であった場合には、小脳など頭蓋内の血管芽腫や網膜の血管腫、腎細胞癌や副腎褐色細胞腫、膵臓腫瘍などを合併することもあり、当院でも術後に血管芽腫の確定診断が得られた場合には、これらについてスクリーニング検査も行なっております。
腫瘍やそれに伴う脊髄浮腫、空洞(嚢胞)が頭尾側に広がっていくことによって、脊髄を内側から障害していき、症状を起こします。腫瘍や空洞(嚢胞)が頚髄や胸髄などのどこに発生するかによって症状は異なりますが、四肢や体幹の感覚障害や痺れ、痛み、力の入りづらさ、膀胱直腸障害などの症状を呈します。
無症状の場合には経過観察を行うこともありますが、基本的には手術による摘出が第一選択となります。脊髄浮腫や空洞は腫瘍を摘出することで自然と縮小、消失していきます。腫瘍は比較的脊髄の表面にできることが多いですが、深いところに発生することもあります。
手術では椎弓という骨を削り、硬膜を切開した後に脊髄を露出させ、表面を観察します。腫瘍が一部露出していることが多く、その周囲には発達した流入血管や流出血管が走行しております。腫瘍に切り込んでいくと、多量の出血をしてしまうため、注意が必要です。術中にインドシアニングリーン(ICG)という蛍光色素を静脈から投与することで腫瘍の流入血管と流出血管を同定することができますので、流入血管から少しずつ凝固・切断していくことで、腫瘍への血流を少しずつ減らしていきます。事前に血管撮影を行い、コイルや液体塞栓物質を用いて腫瘍への栄養血管を塞栓させておくこともあります。
腫瘍が露出している時はそこを中心に、露出していない場合には腫瘍が脊髄表面に近いところで脊髄を切開して腫瘍を確認し、少しずつ腫瘍と脊髄とを剥離していきます。流入血管を凝固・切断し、腫瘍は少しずつ焼き縮めていき、腫瘍に切り込まないように、かつ脊髄を傷つけないように慎重に剥離していき、なるべく一塊で腫瘍を全摘出します。腫瘍と脊髄を剥離する操作によって、術後に痺れや痛み、麻痺が強くなってしまうリスクがあるため、これらを少しでも防ぐように慎重に剥離を行なっていきます。術前もしっかりと患者さんとお話した上で手術に臨むように心がけております。